内水面(川と湖)の釣りの管理制度について、不特定多数の人で議論する機会が稀にある。そんな時にいつも不満だったのが、議論するテーマについての知識を、参加者が共通して持ち得ていない点だった。認識レベルがばらばらなので、議論の入り口でスタックしてしまう。
ちょっと待って、あなたは勘違いしているよ、ということがある。いやそれ、もう何回も話した事柄ですから、ということもある。そして、分かってない浅薄な人に限って、大きな声を出したがる傾向がある。そういう人物は、公の場で堂々と胸を張って、長々と意味不明な(あるいは聞き飽きた)持論を発言するのである。
すでに何回かの議論が重ねられている状態で、途中参加してくる人もいる。ここまではこうだったんですよ、といちいち説明していると、毎回行きつ戻りつしてしまう。なかなか物事が先に進まない。
こういった場合、大司教ググレカスに教えを乞いなさい、と誘導するのが世間の定番である。しかし釣りの管理制度、ましてや内水面のそれについてなど、いくら検索してもどこにも出ていない。「フライの雑誌」のバックナンバーには点々と出ているが、探して読んでください、というわけにもいかない。
2024年8月、漁業経済学会のディスカッションペーパー第9巻が公開された。タイトルは「内水面の漁場管理・遊漁に関する制度等の検討や議論に係る経緯について」。筆者は水産庁の櫻井政和さんである。
1949年の漁業法制定の背景から、国内の釣りが隆盛を極めた1980年代を経て、内水面の釣りの制度の議論が闊達に行われた1990年代、2000年代の外来生物法、そして現在に至るまで、内水面の漁場管理に関係する諸事項を時系列に従って、中立的に、縦覧的に整理している。今までこのような文書はなかった。
以下、引用する。
漁業経済学会として、内水面の漁場管理に関する議論の場を設けるのは初めての試みであったが、対応について一定の方向性や結論を得るには至らなかった。今後も、内水面漁業・漁協全般にわたる問題や論点を継続して議論することが必要であり、できるだけ多くの関係者の理解・了解のもとに具体的な成果を結実させ、それを現場が直面している厳しい状況の改善につなげていくことが望まれる。
筆者はこうした過程において、従来の議論、政策検討の経緯やその特性を明らかにしておくことが、より多くの研究者や関係者に本件に関する興味を持ってもらうことに通じるとともに、生産的かつ効率的な議論の展開に寄与すると考えている。
本稿ではこうした問題意識のもとに、我が国の内水面における漁場管理や遊漁等に関する制度・政策をめぐる議論や検討の経緯について紹介し、若干の考察を加えてみたい。
そして、
現行漁業法の制定から現在に至るまでの内水面の漁場管理に関係する文献、法令の制定・改廃等の情報について、その内容や経緯を時系列に従って整理し紹介する。
としている。
櫻井さんは水産庁に釣人専門官制度を創設し、自ら初代に着任した人物である。東京海洋(水産)大学時代には水口憲哉研究室に在籍していた。このような文書の書き手としてはもっともふさわしく、むしろ櫻井さん以外にここまでまとめられる人物はいない。ぜひ多くの方に読んでいただきたい。
内水面(川と湖)の釣りの管理制度の歴史を知るための教科書となる。議論に参加するための、前提となる知識が必要十分に整理されている。これからよりよい釣り場を作る議論に参加したいですという方は、まずこれだけ読めばいいのである。
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