「つり環境ビジョン2012」は本物か。

1月11日、フライの雑誌社も加盟している日本釣りジャーナリスト協議会の2013年1月定例会へ出席した。

国内釣り具メーカーの業界団体である社団法人日本釣用品工業会(日釣工)は、公益財団法人日本釣振興会と共同して、今後「つり環境ビジョン」事業計画を進めていくことが発表された。このつり環境ビジョンの大目的は、「持続可能なつり環境の構築」。清掃事業、防波堤開放事業、放流事業が事業の三本柱となる。

事業費用には、環境保全協力費の名目での日釣工会費の増額分と、環境協力費名目での非会員からの一口50000円の寄付があてられる。

一般の釣り人の負担もある。

2013年4月1日から、日釣工加盟の釣り具メーカーが製造する釣り具関連の新商品全てで、リール・竿で1商品ごと20円、リール・竿以外では1商品ごと2円が、一律に賦課徴収される。「環境・美化協力マーク」のシールが目印だ。(プレスリリースの席上では集金目標として「1億」という数字が口頭で伝えられた)。

「つり環境ビジョン」が策定されるまでには、ていねいに進められてきた前段がある。2012年1月に釣り具業界関係会社、団体を対象としたアンケートが実施された。4月に公表されたアンケート結果概要はこちら。その結果を受けて内部で議論が重ねられ、11月には大阪と東京で公開の「ご説明会」が開かれている。その後、12月17日の日釣工臨時総会で了承された。

これまで、日本の釣り具業界がこのようなかたちで釣り人から広く資金を徴収したことはなかった。釣り場環境の持続を名目とした業界団体が主導する〝釣り具税〟のようなものと考えれば分かりやすい。アメリカでのD-J法を連想させる。日本では水産庁が数年前からこのD-J法の研究を進めてきたが議論は立ち消えになっている。そもそも漁業と遊漁をとりまく行政環境ならびに釣りの文化環境は、アメリカと日本ではまったく異なる。D-J法的なスタイルでの新しい目的税の導入は今の日本では不可能だし、そぐわない。

業界団体が自主的に費用を工面して釣り環境の改善を進めるのは、政府による強制的な税徴収よりもましだ。問題は、釣り人側が負担増を容認するのか、集められた資金が有効に運用されるかである。

じつは、つい昨日まで、筆者はこの「つり環境ビジョン」の存在を知らなかった。業界団体によるこういう有意義な事業の準備が進められていることを知らずに、「釣りと釣り人を守れない釣り具メーカーに存在する意味はない。」などと、えらそうなことを言っていたわけだ。不勉強きわまりなく、恥ずかしい。

では、これからは「環境・美化協力マーク」付きの釣り具を購入することにより、釣り具メーカーは、釣りと釣り人のために汗を流してくれるのか。

日釣工さんによる「ご説明会」の質疑応答のまとめには、放射能汚染に関する記述がなかった。昨日わたしは日釣工の担当者さんへ質問したところ、「放射能汚染を問題とする意見はあった。多岐にわたるご意見をいただいたので、数の多い順から掲載した。」という返答だった。

意見があったのに書かないのは、なかったことにするのと同じだ。日本にはいま、水があって魚がいるのに釣りができない釣り場がある。放射能汚染は地球規模の最大の環境問題である。目を背けても現実は現実だ。

「つり環境ビジョン」を共同して進めていく公益財団法人日本釣振興会の名誉会長は、麻生太郎副総理・財務大臣・金融担当大臣がつとめている。

未来へつづく釣り環境の保全を謳うならば、釣りと釣り場を守るために、この〝みぞうゆう〟の危機にきちんと向き合うべきではないだろうか。健全な自然なしには成り立たない釣り業界団体ならではの、軸のしっかりした発言というものがあるはずだ。

その上で活動のための資金協力をお願いするなら、納得して払う釣り人も多かろう。

(『フライの雑誌』編集人/堀内正徳)

日本釣りジャーナリスト協議会1月定例会(2013/01/11)