創刊50周年を迎えた『ミステリマガジン』(早川書房)の1月号に、樋口明雄氏の中篇『メモリーズ』が掲載されており、掲載直後から反響を呼んでいます。
きっとあれはトビケラだ。それもきわめて体躯の大きなヒゲナガカワトビケラ。俺のもっとも好む虫なのだ。食いたい。だが、我慢しなきゃならない。
主人公「俺」の前世は釣り師で、今は頭部に稲妻状の傷を持つ(!)大岩魚。ヒゲナガが好物。誇りある「俺」の住処である小さな淵にある日、邪な気配ぷんぷんの毛鉤釣り師がやって来て…。
一般読者はもちろん、釣り師の読者ならなおのこと愉しめる傑作です。骨太の作風で定評のある作家ならではの見事な描写と仕掛け。魚を単純に擬人化した安直な作品とは質が違います。樋口作品特有の味わいある結末に喝采しました。
『フライの雑誌』では来年、腕利きの釣り師でもある、樋口明雄氏の書き下ろし作品を掲載予定です。どうぞお楽しみに。