本誌読者にはおなじみ、群馬県桐生市在住の中村羽舟さんは世界最高齢のバンブーロッド・ビルダーだ。島崎憲司郎さんの筆で、単行本『バンブーロッド教書』にも登場していただいた。
わたしは去年、羽舟さんへ一本のバンブーロッドをお願いした。竿を作ってもらうにあたり、生意気にも羽舟さんへ色々とお願いをつけていた。
地元の川で普段使いの竿であること、ティップが細すぎないこと、ラインは1番よりも2番をメインにしたいこと、6フィート以下に短くしてほしいこと、手の中から竿先まで全体に曲がってほしいこと。毎日、ハヤを、ハヤを釣る竿なんです。…そんなどうでもいいわたしの世迷いごとを、羽舟さんはニコニコと聞いてくださった。
その竿が届いた。5フィート9インチ、3ピース、2つの竹フェルール。しっとりとした色合いの羽舟竿独特のロッドケースから取り出した三つのセクションを自分の手にのせて、わたしはほとんど恍惚としてしまった。
考えてみれば、わたしのような者が、当代きってのバンブーロッドの名工で85歳になる人生の大先輩へ、自分の釣り竿を作ってもらうなど、勘違いもはなはだしい。実際にできあがってきた羽舟竿を前にすると、欣びと畏れとが交互に波のように押し寄せてきた。頭がくらくらする。
一流の道具は手にする人間をその枠以上に成長させてくれるという。この竿に見合った釣り人に少しでも近づきたい。
さっそく川へ持ち出した。