あたらしい羽舟竿でオイカワを釣る。

本誌読者にはおなじみ、群馬県桐生市在住の中村羽舟さんは世界最高齢のバンブーロッド・ビルダーだ。島崎憲司郎さんの筆で、単行本『バンブーロッド教書』にも登場していただいた。

わたしは去年、羽舟さんへ一本のバンブーロッドをお願いした。竿を作ってもらうにあたり、生意気にも羽舟さんへ色々とお願いをつけていた。

地元の川で普段使いの竿であること、ティップが細すぎないこと、ラインは1番よりも2番をメインにしたいこと、6フィート以下に短くしてほしいこと、手の中から竿先まで全体に曲がってほしいこと。毎日、ハヤを、ハヤを釣る竿なんです。…そんなどうでもいいわたしの世迷いごとを、羽舟さんはニコニコと聞いてくださった。

その竿が届いた。5フィート9インチ、3ピース、2つの竹フェルール。しっとりとした色合いの羽舟竿独特のロッドケースから取り出した三つのセクションを自分の手にのせて、わたしはほとんど恍惚としてしまった。

考えてみれば、わたしのような者が、当代きってのバンブーロッドの名工で85歳になる人生の大先輩へ、自分の釣り竿を作ってもらうなど、勘違いもはなはだしい。実際にできあがってきた羽舟竿を前にすると、欣びと畏れとが交互に波のように押し寄せてきた。頭がくらくらする。

一流の道具は手にする人間をその枠以上に成長させてくれるという。この竿に見合った釣り人に少しでも近づきたい。

さっそく川へ持ち出した。

羽舟竿のインスクリプション。羽舟さんは書家でもある。それにしてもこれほど細い竹面へよく篆刻文字を正確に書けるものだ。
羽舟竿のインスクリプション。羽舟さんは書家でもある。それにしてもこれほど細い竹面へよく篆刻文字を書けるものだ。
5フィート9インチの竹フェルール・3ピース。真竹。
5フィート9インチの竹フェルール・3ピース。真竹。
地元の釣場で今季はじめてのオイカワ。先週まではいなかった。羽舟竿がオイカワを釣れてきてくれた。
地元の釣場で今季はじめてのオイカワ。先週まではいなかった。羽舟竿がオイカワを連れてきてくれた。最高にたのしい。
出来上がったばかりの羽舟竿、樋渡忠一さんに作ってもらったオイカワネット、『フライの雑誌』創刊編集長の中沢さんからもらった古いフライリール(重っ)。これだけの由緒ある道具で、ほんの小さいオイカワを釣って放すだけ。釣って放すだけ。毛鉤は昨日巻いたストレッチボディ式のアイカザイム20番。わたしはなんてぜいたくな釣りをしているんだろう。
出来上がったばかりの羽舟竿、工房ひわたりの樋渡忠一さんに作ってもらったオイカワネット、『フライの雑誌』創刊編集長の中沢さんからもらった古いフライリール(重っ)。それぞれの物語がたっぷり詰まった道具で、ほんの小さいオイカワを釣って放すだけ。わたしはなんてぜいたくな釣りをしているんだろう。
フライフィッシングは心のぜいたくさを楽しめる釣りだ。
世界は人間にとって、時にどうしようもなく無慈悲だ。でも釣り人はわりとあきらめがわるい。
魚が釣れればもちろん、釣れなければそれ以上に、明日へのぞみをつなげる。
どんなときでも明日へのぞみをつなげる。
『フライの雑誌』第106号|〈2015年9月12日発行〉| 大特集:身近で深いオイカワ/カワムツのフライフィッシング─フライロッドを持って、その辺の川へ。|オイカワとカワムツは日本のほとんどどこにでもいる魚だ。最近になって、オイカワとカワムツがとても美しく、その釣りは楽しく奥深いことを、熱く語るフライフィッシャーが増えている。今号ではオイカワとカワムツのフライフィッシングを、大まじめに真っ正面から取り上げる。この特集を読んだあなたは、フライロッドを持ってその辺の川へ、今すぐ釣りに行きたくなるでしょう。 新連載 本流の[パワー・ドライ] Power Dry Flyfishing ビッグドライ、ビッグフィッシュ|ニジマスものがたり
『フライの雑誌』第106号|〈2015年9月12日発行〉|
大特集:身近で深いオイカワ/カワムツのフライフィッシング|オイカワとカワムツのフライフィッシングを、大まじめに真っ正面から取り上げました。この特集を読んだあなたは、フライロッドを持ってその辺の川へ、今すぐ釣りに行きたくなるでしょう。
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【発行なる!】バンブーロッド教書[The Cracker Barrel] 竹の国の釣り人たちへ。
【発行なる】バンブーロッド教書[The Cracker Barrel] 竹の国の釣り人たちへ。|サンテ・L・ジュリアーニ/マーク・ウェント/ケン・スミス/ウィリアム〝ストリーマー〟エイブラムス/キャシー・スコット/ジョー・ビーラート/永野竜樹/山城良介/川本 勉/三浦洋一/平野貴士/池田和成/北岡勝博/島崎憲司郎  装丁画:北岡勝博
永野竜樹 =訳 フライの雑誌社 =編
『フライの雑誌』第108号|4月5日発行
『フライの雑誌』第108号|特集1◎シマザキ・ワールド 15 レッドアイリーチから30年 島崎憲司郎/特集2◎日本の[スチールヘッド] 〈夢の魚〉を追いかける仲間たちのストーリー ニジマスよ、海を目指せ!|4月5日発行 〈ランドール・カウフマンさんが面白いネと言ったからストレッチボディ〉な裏話も掲載。Amazonで扱い開始。
フライの雑誌-第92号 特集 ただ一本の竹竿(バンブーロッド)2 表紙:中村羽舟さん(バンブーロッドビルダー) 竿をつくるしごと3「羽舟さん」文・島崎憲司郎
フライの雑誌-第92号 特集 ただ一本の竹竿(バンブーロッド)2 表紙:中村羽舟さん(世界最高齢の現役バンブーロッドビルダー) 竿をつくるしごと3「羽舟さん」文・島崎憲司郎