抜群に使いやすく極めつけによく出るアイカザイム。

先日、本誌に「パニック・ライズ」を連載中の松井真二さんと一緒に釣りに行った。川までの車中でストレッチボディとCDCの話になった。そのとき松井さんが、「井上さんといっしょにイブニングで釣っていて、ふと毛鉤を見るとアイカザイムが結ばれてるんですよねえ。」と言っていたのを、わたしは聞き逃さなかった。

ヘンタイ桂師の代表作みたいな井上さんが桂の釣りでアイカザイムなら、それはまちがいない。井上さんがこのところマシュマロで大きいのを釣っているのは知っていたが、アイカザイムもとはうかつだった。

そもそもアイカザイムは島崎憲司郎さん考案のCDCパターンだ。『フライの雑誌』第13号(1990)の特集◎〈カモの毛は本当に効くのか〉でくわしく紹介されている。当時はまだCDCが手に入りにくい時代だった。その頃三鷹にあった『フライの雑誌』の編集部でもらってきた貴重なCDCを、毛の一本もむだにしないように緊張しながら毛鉤にした。さっそく忍野へ持ち込んで、それまでとれなかったライズをとった。ちいさいニジマスだったが、すうっと近づいてきたニジマスがわたしの毛鉤を何の疑いもなく吸い込んだ様子を今でも覚えている。

CDCのファイバーをダイレクト・ハックリング(第16号掲載「ダイレクト・ハックリング」島崎憲司郎1991)したアイカザイムは、ライズの釣りでも叩き上がりの釣りでもよく釣れる。それはわたしも当然分かっている。でも不器用なのでタイイングがちょっと、、、で、ここしばらく遠ざかっていた。

ところがストレッチボディの登場で、アイカザイムがものすごく身近になった。CDCをストレッチボディに挟んでくるくるねじるだけで、いとも簡単にCDCをステム無しでハックリングできる。質の良くないCDCの切れっ端でもストレッチボディ式なら有効活用できる。牧浩之さんも言っているように、鳥や獣のフライマテリアルは元は命を持っていたもの。大切に使えば毛鉤への思い入れも深まる。

オイカワ釣りにアイカザイムだなんて、ストレッチボディ以前を考えると、信じられないほど贅沢である。今年は私的にアイカザイム復権のシーズンになりそうだ。だって簡単に巻けるしよく釣れるのである。ストレッチボディでCDCのみならず何でも挟んでくるくるするタイイングが楽しくて、先週から仕事場の編集デスクの上にタイイング道具が出しっぱなしだ。ストレッチボディが自分のフライタイイングに革命を起こしてくれたと感じている。

アイカザイムの初出は『フライの雑誌』第10号(1989)65頁。「シマザキフライの現在 1987-1989」。タイイングと写真 島崎憲司郎。
アイカザイムの初出は『フライの雑誌』第10号(1989)65頁。「シマザキフライの現在 1987-1989」。タイイングと写真 島崎憲司郎。
『フライの雑誌』第12号(1990)
『フライの雑誌』第13号(1990)
「シマザキフライ・カモの毛パターン」タイイングと写真/島崎憲司郎(第13号掲載)
「シマザキフライ・カモの毛パターン」タイイングと写真/島崎憲司郎(第13号)
島崎憲司郎オリジナル、「抜群に使いやすく極めつけによく出るドライフライ」、アイカザイム。一度聞いたら忘れない粋なネーミングは、CDCを日本に普及させたスイスの宮崎㤗二郎さんの姓、MIYAZAKIの逆読みに由来。この写真キャプション中に書いてある。〝宮﨑さんがニュージーランドへ行った時にどうこう〟と解説しているタイイング本もあるようだが、それは完全なデマ。
島崎憲司郎さん考案の 「抜群に使いやすく極めつけによく出るドライフライ」、アイカザイム。

一度聞いたら耳に残るネーミングは、当時の『フライの雑誌』を通じてCDCを日本に紹介したスイス在住の音楽家、宮﨑㤗二郎さんの姓、MIYAZAKIの逆読みアナグラムに由来。写真のキャプション中に書いてある通り。この宮﨑ルートがさきがけとなって、アメリカのフライフィッシングの世界にもCDCという魔性の羽根が怒濤の勢いで拡まっていった。

アイカザイムについて、某社発行のタイイング本は「スイスの宮﨑さん考案のパターンを、島崎さんが日本に紹介した」という大間違いを堂々と書いている。要注意である。この本、今は絶版となっているようだが、いまだにウェブ上でこのデマが複数引用されてしまっている。たいへん残念なことだ。

中には「ニュージーランドで宮崎さんに会った時に教えてもらって…」と書き加えた記事もある。これについては島崎憲司郎さんが宮﨑㤗二郎さん本人に電話で確認したところ、「ニュージーランドには行ったことないですよ。」と明言されたとのこと。

ウェブ記事でも(無料で人の目に触れるウェブ記事だからこそ)、事実関係の記述には正確を期したい。書籍や雑誌では言うまでもない。

今夜ちょこちょこっと巻いたフライ。これがアイカザイムですなどと言い張るつもりは毛頭ございません。めっそうもない。
明日のオイカワ釣り用に、今夜ちょこちょこっと巻いたフライ。これがアイカザイムですなどと言い張るつもりは毛頭ございません。ええ、めっそうもない。CDCをくるくるした後のストレッチボディの端っこを、ほんの少し残してカットすると視認性がさらに高まります。
ぜいたくだ。
ああ、ぜいたくだ。
第16号掲載「ダイレクト・ハックリング」島崎憲司郎1991
第16号掲載「ダイレクト・ハックリング」島崎憲司郎1991
『フライの雑誌』第108号|4月5日発行
『フライの雑誌』第108号|特集1◎シマザキ・ワールド 15 レッドアイリーチから30年 島崎憲司郎/特集2◎日本の[スチールヘッド] 〈夢の魚〉を追いかける仲間たちのストーリー ニジマスよ、海を目指せ!|4月5日発行 〈ランドール・カウフマンさんが面白いネと言ったからストレッチボディ〉な裏話も掲載。Amazonで扱い開始。
『フライの雑誌』第106号|〈2015年9月12日発行〉| 大特集:身近で深いオイカワ/カワムツのフライフィッシング─フライロッドを持って、その辺の川へ。|オイカワとカワムツは日本のほとんどどこにでもいる魚だ。最近になって、オイカワとカワムツがとても美しく、その釣りは楽しく奥深いことを、熱く語るフライフィッシャーが増えている。今号ではオイカワとカワムツのフライフィッシングを、大まじめに真っ正面から取り上げる。この特集を読んだあなたは、フライロッドを持ってその辺の川へ、今すぐ釣りに行きたくなるでしょう。 新連載 本流の[パワー・ドライ] Power Dry Flyfishing ビッグドライ、ビッグフィッシュ|ニジマスものがたり
『フライの雑誌』第106号|〈2015年9月12日発行〉|
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