『フライの雑誌』に毎号連載中の作家樋口明雄氏の新刊がこれ。樋口氏の作品で私が個人的にもっとも好きなのは『俺たちの疾走』と『武装酒場』である。『武装酒場の逆襲』は『武装酒場』の続編だというので、うわそんなの出ちゃうのかと思いつつさっそく読んだ。
『武装酒場』は教養主義から遠く離れたハチャメチャなスラップスティック小説だ。『武装酒場の逆襲』のスケールと破壊力は前作をしのぐ。樋口明雄氏は書き下ろし超大作『約束の地』で2008年の日本冒険小説協会大賞をとった。自然との共生という時代を先取りした大きなテーマを緻密な構成で描き切った独自の世界が各方面から高く評価された。内藤陳氏の激賞が印象的だ。その樋口氏が本気になってドタバタ小説を書いたら『武装酒場の逆襲』になった。ドタバタといいつつやはり樋口明雄で最終的にはホロリとさせられてしまうところが心憎い。
登場人物たちは前作同様、ひたすら酔っぱらってありとあらゆるものを手当り次第にぶっ壊す。100年に一度と言われる大不況のご時世にここまで金儲けの役に立たない小説はないと断言する。勝間和代ならあの小鼻を大きく広げて冷笑するに違いないが、私に言わせればこんなご時世だからこそ、読んだ人をスコーンと明るい気持ちに引き上げてくれるこんな小説が世の中で広く読まれるべきなのだ。『無理なく続けられる 年収10倍アップ勉強法』なんて誰が読むか。
『武装酒場』続編書き下ろしにつづいて、長く品切れだった青春名作『俺たちの疾走』の再版も決まったという。今年は樋口明雄氏の年になるはずだ。先日編集部では樋口氏の南アルプスの仕事場へお邪魔してきた。ハードボイルドなフライマンでもある樋口氏の野性味あふれるインタビューは、『フライの雑誌』の次号第88号に掲載する。
いま気づいたが『フライの雑誌』は次で第88冊めになるらしい。「88」とはとっても縁起がいい。『フライの雑誌』次号第88号を手にとった人には、きっと幸運が訪れることでしょう。たのしい釣りができますように。（ほぼ神頼み）
