お粗末な政治と科学と報道と

毎日新聞1/10朝刊に次のような記事が載った。科学部元村有希子記者の署名がある。

「キリクチ」は紀伊半島だけにすむイワナだ。奈良県吉野郡の熊野川水系。ここはイワナの「世界の南限」でもある。しかしシカの食害で川に養分を供給する森林が荒れ、川の流れも変わって生息を脅かしている。淡水魚の研究者らでつくる「水生生物保全協会」は07年から、大学や研究機関と連携して保護に取り組んできた。放置された間伐材を活用し、川が本来持つ複雑な環境を再現した。流れが緩やかになる深い部分(淵(ふち))は産卵場所になる。産卵場所を他の区域の6倍に増やすことに成功した。 地球と暮らす:/96

水生生物保全協会のウェブサイトを見ると、国土交通省と深い関係があることをうかがわせる。協会の定款には「淡水魚類をはじめとする水生生物及びその生育・生息地を保全する」とあるが、水生生物の生息環境を根本から破壊してきた張本人はまちがいなく国交省である。さらに見ると、外来魚害魚論の旗振り役として活躍中の細谷和海近畿大学教授が協会の理事を務めている。『魔魚狩り ブラックバスはなぜ殺されるのか』(水口憲哉著/フライの雑誌社刊)に書かれた〈お粗末な政治と科学〉の馴れ合いがここにもあるということだろうか。

毎日新聞の記事中に「流れが緩やかになる深い部分(淵)は産卵場所になる。」とあるが、これは不正確である。編集部では毎日新聞が公開している意見の受付窓口へメールとファクスで大要次のような文章を送った。

キリクチを含めたイワナおよびヤマメ、アマゴなどの渓流魚は「深い淵」では産卵しません。渓流魚が産卵するのは「水面が10〜30cmくらいで水面が波立たない速さで流れている渕尻や瀬の礫の川底」です。
今回の記事は「渓流魚の人工産卵場造成」の紹介を念頭において書かれたものと拝読しました。人工産卵場造成は、独立行政法人中央水産研究所の中村智幸氏が日本で初めて確立した渓流魚の増殖方法です。水産庁の渓流域管理体制構築事業ではマニュアルとしてまとめられています。
最近になって各地で人工産卵場造りがブームとなりつつあります。それらのなかにはこの技術の内容と意味を誤解、あるいは曲解した活動も少なくなくありません。もっとも問題なのは、人工産卵場を作れば現在の渓流魚をとりまく切迫した問題がすべて解決するわけではないにも関わらず、人工産卵場だけが(しばしば間違った解釈のもとに)善行であるかのようにとりあげられることです。人工産卵場造成の推進が、裏側では堰堤やダムの建設といった河川環境を破壊する活動の隠蔽につながることを危惧します。

中途半端な理解のまま公の場で魚について書かれるとむしろ迷惑である。毎日新聞からは今日現在まで反応はない。

魔魚狩り ブラックバスはなぜ殺されるのか
桜鱒の棲む川
イワナをもっと増やしたい!