女性記者・深町彩乃は、出張中の電車内で少年、藤木ミチルと出会う。
彩乃は行き場をなくした少年と行動を共にするが、それは血塗られた逃避行の始まりでもあった。
逃亡する彩乃と少年に、魔物に変貌した人々が襲いかかる。
今にも、彩乃が魔物に喰い殺されるという時、突如ロングコートの大男が現れた。
「頼城茂志。ミチルの〝守護者〟だ」 男はそう言うとコートの下からショットガンを取り出した。…
(amazonの内容紹介から)
本誌連載中、樋口明雄さんの単行本新刊『邪神街 ファントム・ゾーン』(上巻)が創土社さんから出た。末弥純さんの装丁画はその筋の方にはサクッと刺さる。
スラップスティックもの、山岳小説、冒険小説、ハードボイルド小説、幻想小説と、樋口さんが手がけるジャンルは幅広い。どうしてこんなに、という質問を受けて、ご本人が涼しい顔で、「ぼくは幕の内弁当なんです。」と答えているインタビューを、以前どこかで読んだ。幕の内弁当にはここまで色々なオカズは入ってない。
よく言われていることだが、樋口さんの手がけるどのジャンルの作品にも、樋口スジとでも呼ぶべき一本のスジがきっちり通っている。樋口作品に登場する、ドロボーでも刑事でも登山家でも冒険家でも酔っぱらいでも魔物でも、作家の操る糸を離れてどこかへ行ってしまうことはない。
そしてハッピーエンド、バッドエンドに関わらず、ラストの頁を閉じると、そこにはかならず樋口明雄的な読後感が待っている。だから作家の名前にファンがつく。樋口ものはとりあえず買う、という固定ファンがいる。
といっても、これまで樋口明雄作品を手にしたことがないという方は、最初にどの本を読めばいいか、困ってしまうだろう。
そんなときは、『目の前にシカの鼻息』をどうぞ。なんといっても樋口明雄さん初めてのエッセイ単著。作家の隠しきれない生身の声がすべて入っている。『目の前にシカの鼻息』を水先案内人に、幕の内弁当どころではない、樋口明雄の奥ふかい世界を探索してみてください。