「今日ワカサギ400匹でましたよ!」とボート屋さんから電話をもらったその翌日に速攻駆けつけたものの絶不調。ボートを返すときに釣果を言ったらボート屋さんは絶句。無言状態が5秒くらい続いた後に「すみませんねえ…。」と本当にすまなそうに言われたのが、ついこないだの月曜日のことであった。すまないのは僕のほうです。ほんとごめんなさいね。へたくそで。
ところが私どもは懲りない夢見る釣り師なので、つづいて今週も河口湖へ行って来た。前夜にこのところの貧果を逐次報告している近所の上州屋さんへアカムシと仕掛けを買いに行き、明日また河口湖行くんだと言ったら店員さんは大笑いして「ドMですね。」だと。今度こそ入れ食いでもうすごいはずなんだから見ておいてよね。
日の出前に自宅を出発し、河口湖畔のいつものボート屋さんの船着き場に家人とともに降り立った。ワカサギ釣りにはまるまでの家人は釣りにはずぶの素人だったはずだ。ところが今では自分が一刻も早く竿を出したいものだから、まるで軍人のような素早さでボートの出航準備をするようになってしまった。潮風に鍛えられた漁師のかみさんのような後ろ姿が頼もしい。
じつは本当は前夜ボートを予約した際にボート屋さんから、「明日は氷が張ってボートが出られるかどうか分かりません。それでもよかったら来てください。」と言われていた。ボート乗り場に着いたときこちらの顔を見て(ほんとに来たんですか)と少しあきれていた風だったボート屋さんに、「それでも来ちゃいましたよ。」と言ったら笑ってもらえた。ありがとう。うれしいです。
さていつものことながら、朝一番でボートを出すときには期待にふるえる。ボート屋さんの言う通り、このところの寒波襲来で河口湖の岸にはやはり1センチほどの厚さの氷がびっしりと浮いていた。でもそんなのまったく気にしない。南極観測船のようにバリバリ、ワシワシと氷を割りながら、目的のポイントに向ってグイグイまっすぐ漕いでゆく。ふだんは軟弱な私がこんなときにはもりもりと力が湧いて来るから不思議だ。
「今日はどれくらい釣れるかな。じゅったば行くかな。大きいバケツ持ってくればよかった。」
「河口湖のワカサギは大きいから、10束も釣れちゃったら食べきれないね。」
「バケツがいっぱいになったらボートの底にどんどん積んでいこう。」
「そのうちワカサギの重みでボートが沈んじゃったりして。」
景気のいい会話が家人と弾む。
「釣りは釣りする前が一番楽しいかもしれないね。」
「縁起でもないこと言わないでよ。今日こそは入れ食いなんだからさ。」
ハハハ。ハハハ。ああ幸せだねえ。
さあポイントに着いた。いよいよ釣り開始だ。
・・・ん? ん? ん? ん?
本当に釣りする前が一番楽しかった。湖底に群れているはずのワカサギからはほぼなんの反応もないまま時間だけが矢のように過ぎていった。それでも零下5℃の寒空のしたを耐えに耐え、これ以上もう本当にムリだからと白旗あげるまでよくがんばった。けっきょく数時間後、家人とふたりで精も根も使い果たし心がすっかり折れた状態でよろよろと船着き場に戻ってきた。
ボート屋さんが迎えてくれて「どうでしたか!」と必要以上に明るくうれしそうに聞いてきた。
「え、●匹ですか。」
先週に引きつづき再び絶句したボート屋さんの、先週以上に心からすまなそうな表情がつらい。ほんとごめんなさいね。へたくそで。