よんどころない事情により、浦安にある夢と魔法のネズミの王国へ出かけた。
人のいない方へいない方へと行きたいのが習性の釣り師としては、朝の首都高速10キロ渋滞に突っ込んでいった時点ですでにげんなり。ようやく駐車場に着いたら、広場へ車を置くだけで2000円ものお金をとられてぐったり。入口ゲートに立ち並ぶ警備員には、お前のカバンの中身を見せないと王国には入れさせないぞと脅されておかんむり。今日一日疲れる覚悟はしていたつもりだが、想像以上だ。
いったん中に入ってしまえば囚人の運動会みたいなものでツラい中にも楽しみがあるはずと思っていたが甘かった。何千体ものラブリーなバネ仕掛けの人形が「世界はひ〜とつ〜」と歌いくるっている中をボートで巡ったって、40男になにが面白い。だいたいにおいてアメリカ生まれのネズミが世界平和を呼びかけることじたい欺瞞だろうとか余計なことを考える私に、ネズミの王国の臣民になる資格はないようだ。
10月とは思えない暑さのなかで2時間も放置された末にようやく入ったら10分ですぐに出されたお化け屋敷も、ぜったいに2時間待つだけの価値はなかったと断言できる。世の中には並びたい人や人ゴミが好きな人がたくさんいるのだ。王国内の池にも川にも生きている魚はいなかった。
ということで基本的にツラかったが、なかには面白かったこともあった。
わずかながら静かなエリアをみつけてホームレスのように肩を落としてベンチで休んでいた時、一羽のヒヨドリが寄ってきた。どうやら私が口に運んでいたお菓子を欲しかったようだが、菓子くずを与えている内にどんどん近づいてきて、しまいには私の手のひらから直接ついばみ始めた。通常の野生動物では考えられない逃避距離だ。これはネズミの魔法なのだろうか。
また、ジャングルの中を進むボートの船長をやっていた三十路手前のお姉さんは興味深かった。それっぽいギャグを言ったのにまったく客が盛り上がらないので「できれば全員参加でお願いします」と呟いたときには、私は拍手喝采した。そうしたら「ありがとう、おかげでもう少しやっていけそうです」と返された。今思うと王国にちょっと疲れた感じのあのノリが彼女の売りなんだろう。すべてにおいて過剰な王国で彼女なりに生き残る道筋を見つけたと言うことか。
そんなわけで、夕方のパレード待ち。ハロウィン特集だそうで、そういえば王国内のそこここにはカボチャの化け物が置いてあった。いよいよやってきた巨大な山車の上には、ネズミとかイヌとかよく知らない動物たちがたくさん乗って上手に踊っている。ナレーターは「ハッピーハロウィーン!」と煽るが、なぜハロウィンがハッピーなのかが仏教徒には分からない。
しかしあの踊りのレベルは、たしかにプロの仕事である。ちょっと感動した。かつての飲み友達がここのダンサーで、でもおれ二軍と三軍のあいだを行ったり来たりしてるんだ、と二丁目のカウンターで寂しげに微笑んでいたのが印象に残っているが、聖子ちゃんメドレーを画面を見ないで全曲振り付きで歌いきるのとは訳が違うのだろう。ホアキン・コルテスにはとてもできまい。
あれこれ文句を言っているわりには、パレードのときに私が陣取っていたのは、メインの山車のお城側のどまんなかだった。言うなれば中禅寺湖のダルマ石みたいな一級ポイントである。最初の内はものすごい化粧をした男が目の前で踊り狂っていたので視線を合わせないのに必死だったが、最後の方になったら、すばらしくかわいいお嬢さんが私の前に来てくれた。
立ち位置センターでメインの山車に乗っているのだから、次期お姫様候補なのだろう。いかにもお姫様らしく華奢な手足で踊りも抑制が効いている彼女に私はすっかり恋してしまった。
そこでパレードの終わり際、いつも後楽園ホールでプロレス観戦のときにやっている要領で「おねえさーん!」と応援してみた。するとお姫様は明らかに私を見てちゅっと投げキッスをしてくれたのである。
周囲のお客には冷たい目で見られたが、私は多幸感につつまれて鼻の穴がふくらんだ。
入口ゲートのカバンチェックさえなければ、またお姫様に会いに行ってもいいかな。
フライの雑誌-第128号
特集◎バラシの研究
もう水辺で泣かないために
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フライの雑誌 124号大特集 3、4、5月は春祭り
北海道から沖縄まで、
毎年楽しみな春の釣りと、
その時使うフライ
ずっと春だったらいいのに!