【公開】発言! 日本のサケ・マス釣りの現状と問題 —第3回「釣り問題研究会」での話題提供から(フライの雑誌-第71号)

フライの雑誌-第71号(2005)掲載、〈発言! 日本のサケ・マス釣りの現状と問題—第3回「釣り問題研究会」での話題提供から〉(堀内正徳)を公開します。

釣り問題研究会でのレクチャーを文字起こししたものです。釣り問題研究会は東京海洋大学の教室で公開講座として開催されました。

この発表のときに整理した問題意識は、後に『Backcasts』の「日本のマス釣りを知っていますか」(2016)へつながりました。

今から13年前とあって、言い回しには「おぬし若いな」と思う部分があります。ですが、日本のマス釣り場をとりまく環境の基本線と、問題点の内実は当時とあまり変わりありません。

よくなったこと、わるくなったことは、それぞれ散見されます。日本全国で今なお共通している課題、関係者の努力で少しずつ改善している点など、様々です。

あなたの身近の釣り場ではいかがでしょう。

※追記: 発言の最後のほうで、「釣り場制度に関しては相応の裁量と責任をもって、最小でも都道府県単位で、釣り場のグランドデザインが行われるべきだと思います。漁業法を改訂すること、改訂が不可能ならば制度の拡大解釈を推奨すること、水産庁の〈釣人専門官〉的な専門職を各都道府県におくことが必要でしょう。」と言っています。

この時はそう思っていましたが、現在はまーったく、そのようには思っていません。

今、そのようなことを言い出す人間が出てきたら、お前は何にも分かってない、釣り人として失格だ、3・11とその後の大騒ぎで何も学習しなかったのかい? 節穴さんかい? と小一時間難詰する自信があります。

自分の発言ながらお恥ずかしい限りです。

いっぽう、「この先やられっぱなしになる」は、どんぴしゃりの予見でした。

どんどん切羽詰まってきています。多くの釣り人がお感じの通りです。

(堀内)

・・・

【発言!】
日本のサケ・マス釣りの現状と問題
—第3回「釣り問題研究会」での話題提供から
(フライの雑誌-第71号)

堀内正徳(東京都)

釣り本来の楽しみを疎外する動きには、釣り人自身が意識的に
対応していかないと、この先もやられっぱなしになる

フライの雑誌社の堀内と申します。私は釣り雑誌の一編集者で、ふだん人様の前で喋ることはまったくありません。かなり緊張していますのでお聞き苦しい点はご容赦ください。

今日は日本のマス釣りについてのおおまかな流れと方向性を中心にお話しします。マス釣りの魅力や、抱える問題点はその中から明らかになると思います。ヤマメ、イワナ、ニジマス、ブラウン、ヒメマスといった魚を念頭においています。シロザケ、カラフトマスの釣りについては法体系が異なるので今回は触れません。散文的になるかと思いますがお許しください。また今日は私人としての立場で発言します。

はじめに日本のマス釣りの
四季を追いかけます。

日本のマス釣りは、おおむね2月1日の長良川シラメ釣り解禁から始まります。河口堰建設以降、長良川の釣りも様相が変わっているようですが、風物としてのシラメ釣りは人気があります。

3月、4月、5月と、フライフィッシングにはよい季節です。水生昆虫も多くなってきますので、マッチザハッチというスタイルを楽しむのにも最適です。気ばかりあせるものの思い通りに釣りへいけなくて悩ましい頃です。雪深い地方では、雪どけの増水がおさまった直後がドライフライでのヤマメ、イワナ釣りに最高です。読みがはまると、ワンキャストワンヒットという夢のような体験も夢ではありません。がたいがいは夢に終わります。

6月は山上湖や北海道の湖に行きたくなります。でかいニジマスががぼがぼとカゲロウを食べるので、大型のドライフライをティペットに結んで虫の羽化をあれこれと予想し、追いかけます。外来魚がたくさんいる日光の中禅寺湖は代表的な釣り場です。九州や四国では平野部でのマス釣りは終わりに近くなります。

7月になると山岳渓流が気になってきます。北海道内の河川へは天然のサクラマスが大量に遡上してきますが、これは釣ってはいけないことになっています。毎年何人かが捕まって新聞に載ります。

8月になると陸生昆虫の季節になります。テントを担いで山の中へ泊まりがけで釣りに行くのは楽しいのですが、家庭持ちにはなかなか難しいのが一般的です。9月になると、渓流のマス釣りはラストスパートに入ります。どこも10月半ばまでには産卵期の親魚を保護する意味での禁漁になります。

といっても、自然再生産の見込めない河川での産卵期保護のための禁漁は、絵に描いたモチというか、ちょっと古いですが姿の見えないアザラシに死んだホタテを投げ与えて満足しているのと同じです。皇居のお堀の生態系を守ろう、とも似てるし、アメリカザリガニを殺せばニホンザリガニが増えるはずだ、ともちょっと似てます。

日本の釣り場を
カテゴライズしてみる

日本のマス釣りの特徴的な要素を考えました。

1、釣り場が多彩なこと 2、釣り人の好みも多彩なこと 3、環境改変、釣獲圧などの外的影響を受けやすいこと 4、資源量維持は放流・養殖とは切り離せないこと。

この4点の要素を頭に入れた上で、私たち釣り人がふだん楽しんでいるマス釣り場にはどのような種類があるのか、日本のマス釣り場についてカテゴライズをしてみました。マス釣りに限らず、日本の内水面の釣り場に共通する分類です。

最初は「漁業権の有無」で分類します。

a 漁業権のある釣り場
本州の内水面のほとんどに漁業権があります。漁業権のある釣り場はさらに3種類に分けられます。第一に、一般的な第五種共同漁業権の釣り場。第二に、第二種区画漁業権の釣り場(※区画漁業権には第一種、第二種、第三種があります)。日光丸沼、菅沼、群馬の野反湖などです。第三に、漁業協同組合から第三者へ釣り場の管理を委託されている釣り場。業務委託をすることによって、漁協ベースで禁じられている利益の配分を可能にするという裏技が各地で行われています。

b 漁業権のない釣り場
私有地内にある池や湖、河川にはたいてい漁業権がありません。自分の庭に掘った管理釣り場(つりぼり)などが該当します。

北海道のほとんどの内水面の釣り場には、漁業権がありません。故西山徹さんはトラウト・フォーラムの会報に「北海道は世界的に見てもひじょうにマス類の生息に適した素晴らしい土地だ」と書きました。あれだけの広大な土地にある河川のほとんどが漁協管理下になく、なのに本州の漁協管理下の河川とは比べ物にならないほどの豊かさをいまだに誇っているのは、おどろくべき事実だと思います。

次に「釣り場の形態」で分類します。

a、自然渓流の釣り場。b、自然湖沼の釣り場。c、人工的に作った河川の釣り場。d、人工的に作った湖沼の釣り場。

いま便宜的に「自然」と「人工」という分類をしましたが、例えば三面護岸の自然河川へもともといなかったマスを放せば、それは自然釣り場か人工釣り場か、というのは難しい問題です。そして、そのようなややこしい状況は年々進んでいっています。

ただし釣り人が感じる「気持ちの良い釣り場」とは、その釣り場が天然か人工かというだけが判断基準ではありません。たとえ公園だろうがそこに川があって水生昆虫が棲み、マスが自然再生産していれば、釣り人は釣りを楽しめるというのが個人的意見です。

三つ目は、各都道府県の「漁業調整規則」の規制下にあるかないか。公共水面であれば漁業調整規則の規制下に入りますが、私有地内の池などで公共水面と接していなければ、係わってくるのは地主が決めるローカルルールだけです。

行政的なルールとしては「内水面漁場管理委員会指示」もありますが、一度、内水面漁場管理委員会の傍聴をしてみれば、それがどれだけ釣り場の実態に則した組織かがよく分かります。しかしとにかく、行政上の仕組みとして、釣り人はそういうものを守らなければならないことになっています。

日本のマス釣りはこの30年で激変した

都市在住者が新しくマス釣りを志すとします。どこへ行くか。

マスは冷水性で、東京は亜熱帯気候ですが、じつは都市住民にとって「とにかくマスを一匹釣る」ことは難しいことではありません。「管理釣り場(つりぼり)」に行けば、マスはうじゃうじゃいます。最近では川崎市内でもスズキとナマズ混じりでマスを釣ることができます。皇居のお濠や遊園地のプールにもニジマスが放流されています。

そういったつりぼりへ行けば、マスは簡単に釣れます。養殖ニジマスは過去100年間、人間に簡単に釣れられるように教育されてきたので当然です。「渓流の女王」と称されたヤマメも「幻の魚」イワナも簡単に釣れます。釣り堀に飽きたら次にどこへ行くか。

様々な雑誌記事や書籍では「釣り堀でコツを覚えたら次はキャッチ・アンド・リリース区間へ行こう」と紹介しています。キャッチ・アンド・リリースは「持ち帰り制限ゼロ」という禁漁の次に厳しいレギュレーションです。

本来は少ない魚を少しでも長く釣り続けるための措置なのですが、日本で言う「キャッチ・アンド・リリース区間」のほとんどは、「釣り人もたくさんいるけど大量放流するし、リリースするからいつでも魚がたくさんいる自然渓流を使った釣り堀」という意味になっています。こんなことになっている国は世界中でも日本くらいです。

リリース区間という名の
渓流つりぼり

近年「キャッチ・アンド・リリース区間」という名前の「つりぼり」を設定することにより、遊漁料収入を増やし延命を図る漁協がいくつか出てきています。同じ放流量でもリリースすれば理論的には魚は減らないわけだから、漁協には都合がいい道理です。

そのようなつりぼり的キャッチ・アンド・リリース区間は、大量放流されてはいますが、放流されてからの時間が長くてスペースが広い分、ちょっと魚は釣りづらくなっています。初心者の釣り人は経験を積むごとに、「つりぼり」「キャッチ・アンド・リリース区間」「一般渓流」とステージを進んでいきます。はじめて一般釣り場でマスを釣ることを「デビューする」と言ったりします。

この30年、養殖技術の向上により、これまでマス類が生息していなかった中下流域にまで養殖魚が放流されるようになり、日本のマス釣り場は確実に広がりました。そして、渓流でのマス釣りのスタイルが変わりました。

それまでの渓流のフライフィッシングは、夏ヤマメ一里一尾といわれたようにひたすら遡行して足で釣るものだったのが、放流場所のプールでライズ待ちをするようなスタイルが新しく登場しました。その変化がいいとか悪いとかではなくて、それぞれが日本のマス釣りです。

近場にマス釣りを楽しめる場所が増えるのは、釣り人としては間違いなくありがたいことですし、スレきった魚の釣りは、それはそれでエキサイティングです。

今の制度は誰にとっても
幸せではない

マス釣りは他の内水面の釣りと比べたときに、愛好者の数の割に釣り場が少なく、魚の資源も減りやすいので、水産上の釣り場管理の問題点がより顕著にあらわれます。

日本の内水面は今の法律上では、漁業をするための漁場です。漁業をしていない組合員が構成する漁業協同組合に、当たり前のように漁業権免許が交付され、私たち釣り人は皆「遊びで漁をする人、遊漁者」ということにされています。

今の日本の内水面の釣り場は漁場であるが故に、釣り人には自分たちの釣り場がもっとこんな釣り場であって欲しい、と発言する場も権利もありません。「一般釣り場」も「キャッチ・アンド・リリース区間」も漁協の管理下にある以上は、一般釣り人にはそこへ主体的にコミットできない。疎外されているわけです。

水産行政はこれまで、釣り人の意見を積極的に採り入れてきたようには思えません。水産庁の新しい方針では「釣り人も施策の対象とする」と明記していますので、今後の改善を期待します。

たくさんの人が困っているのに
役所のルーティンだけが生き残っている

マス釣りは、釣り場も釣り人の好みも釣り場の管理も、驚くほどに多様で多彩です。ことにフライフィッシングによるマス釣りは、渓流から湖まで、釣り人の関心が深まり技術が高まると共に、年々幅広くなっています。

釣り人がたのしく充実した釣り人人生を送りたいと思い、その喜びを次世代に伝えたいと願うとき、現状の制度でその欲求をカバーしきれないのは明白です。漁協にとっても今の制度は幸せではない。たくさんの人が困っているのに、役所のルーティンだけが生き残っている。

今後の日本のマス釣り制度の展開を考えると、釣り場制度に関しては相応の裁量と責任をもって、最小でも都道府県単位で、釣り場のグランドデザインが行われるべきだと思います。漁業法を改訂すること、改訂が不可能ならば制度の拡大解釈を推奨すること、水産庁の「釣人専門官」的な専門職を各都道府県におくことが必要でしょう。

こう言った話をすると、権利と義務はセットだ。ついては釣り具に目的税をかけたらどうか、アメリカにはDJ法があるし、などとおっしゃる方もいるかもしれない。私は政治家ではないので、権利と義務がセットであるなどとは思いません。それに私達はすでにもう十分すぎるほど税金を払っていると考えています。

釣り人にとってみれば、釣り場の管理と運営に一般の釣り人の声が反映され、その上で釣り場が適切に運営されるのであれば、どんな方法でもいいのです。いずれにせよもっと論議をするべきです。少なくとも釣り人も議論に参加できる場が欲しい。

なんとかしようじゃなくて
なんにもしなくてもすむようにする

あちこちの河川をふらふらと釣り歩いて感じるのは、つくづく地元に自分の思い通りになる釣り場があれば、どんなにか幸せだろうということです。心から愛せる川が身近に一本あれば、釣り人は幸せな人生を送って笑って死ねます。

月刊『北海道のつり』の編集長と先日、最近は北海道でも、やれ移入種は駆除しろだ、やれ釣り人を免許制にしろだと非常にかまびすしいと話していました。彼は「釣り人の力でなんとかしようじゃなくて、なんにもしなくてもすむようにするんだ」と言います。その腰のすわったアナーキーさは感動ものでした。

釣りはあくまで個人プレーで、酒屋万流なのが楽しいのだと思います。徒党を組んで同じ釣りをしても、あまり楽しくない。

最近、環境だの釣り人の義務だのと耳触りのよい文句を掲げて、釣り人をあれこれと縛り付けたがる動きが多いように感じます。釣り本来の楽しみを疎外する動きには、釣り人自身が意識的に批判し、いちいち対応していかないと、この先もやられっぱなしになるような気がします。

テーマとはずいぶん離れた内容になったようです。失礼しました。これで私の話題提供を終わります。

※このあと、会場との質疑応答。質疑応答の方がはるかに盛り上がったとは本人の弁。

(2005年9月17日 第3回「釣り問題研究会」でのレクチャーをもとに編集)

フライの雑誌-第71号「発言!」
フライの雑誌-第71号特集◎釣り人の明るい家族計画(売切れ)
[フライの雑誌-直送便] 「フライの雑誌」次号第114号は6月に発行します 
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