「お昼の天ぷら定食 限定10食・1100円(税込)」で釣りインポッシブル

わたしを連れて行くと割引してくれる、という割引要員で「ミッション・インポッシブル6」を観に連れて行かれた。

あいかわらずのトムクルのご活躍ぶりだった。若いころはF-14でドッグファイトしていた男だから、56歳になってもニュージーランドのキャニオンのすき間を自分の操縦するヘリコプターで空中戦やるくらいはお手の物なんだろうが、観ている身にもなってほしい。渋滞しているパリの街中をノーヘルのバイクでひゅんひゅんハングオンしながらすり抜けるなんて、ふつうに危ない。凱旋門通りを一方通行逆走とか交通違反でしょ。本当にひやひやした。

基本的に今回の作品は、テレビ番組のSASUKEをスケールアップして世界中で撮影した映画と思えばまちがいない。カウントダウンに追われながら最後に塔上ってボタン押すやつです。あとカムイ伝の抜け忍要素も入ってる。女スパイはいつの時代も切ない。

歳上のトムおじさんのアクションが凄すぎて、見てるこっちのおじさんが大いに疲労してしまった。映画館をでたときは、そのことに気づかなかった。たぶん上映中の2時間38分、わたしはろくに呼吸をしていなかったと思われる。

映画が終わってどこぞの和食やさんへ入ったところ、そこの板さんの顔がものすごくおっかなかった。胸のネームプレートに店名と同じ名前が書いてあった。おそらく経営者なのだろう。まだ若そうで体つきも小さいが目線が異様に鋭く、数人いる従業員さんも常にビクビクしている感じ。

天ぷらを揚げている箸を、揚げ鍋の角で「カカカカカッ」と、定期的にキツツキのように打ち鳴らすのが癖らしい。食事中に「カカカカカッ」とやられるのはかなり気になる。追い立てられているような気分です。「しめじです」「カカカカカッ」、「かぼちゃです」「カカカカカッ」。ビクビクしながら食事した。お得な「お昼の天ぷら定食 限定10食・1100円(税込)」なんか頼んで本当にすみません。心の中で謝りながらお代を払った。

ダメージが色濃い。

「ミッションインポッシブル6」での無呼吸に天ぷら鍋の「カカカカカッ」がダブルの決め手になったらしい。その日の午後から急速に体調が悪くなった。まともに立っていられない。暑いはずなのに寒い。寒いはずなのに暑い。暑いのだか寒いのだか分らない。

蝋人形状態で自宅へ戻り、体温を測ったら34度台なのに寒くてぶるぶる震えた。わたしはもともと33.2度の自己最低記録をもつ低体温症だ。34度くらいでは少しも驚かないが、寒いのには困った。頭のはたらきもだんだん落ちてきたようだ。遠くで妻が呼ぶ声がする。「病院へ行こう」。それだけはやめてくれと、薄れていく意識のなかで叫んだ。「注射はいやだ、いやです。病院へ行ったら殺される」。お医者様が聞いたら怒ってほんとに殺されそうな不適切な言説だ。

けっきょくそのまま、とろとろとろとろ、半睡半醒、五里霧中というかんじでずーっと寝ていた。ときどき背中が痛くなって寝返りをうつくらいで、基本的に動きたくない動けない。「病院行こう」とか「救急車」とかいう単語が聞こえるたび、フッと目が覚めて「それはいいから!」と拒否の意志は示しておいた。それくらいの程度の体調の悪さだった。

じつは翌日、知り合いのご夫婦をフライフィッシング体験にお連れするという、前々からの約束になっていた。場所やコースを色々と考え、フライもタイイングして道具も準備万端にしていた。

今までわたしは釣りの約束を破ったことがないのが自慢の男だ。もう20年くらい前だと思うが、友人の大谷さんと真冬に札掛へ釣りに行く約束をしていた。(ばかだ)

あのときは、前夜39度台後半の大カゼで寝込んでいたのを、どうしても釣りに行きたくて、気合いと根性をもって全身を布団蒸しにして、朝まで耐えた。釣り場に立ってしまえばこっちのものだから、といま思えばわけのわからない自信をもって川辺に立ち、小雪舞う中をドライフライでばんばん釣った。帰ってきたらカゼは治っていた。というか釣っている最中に忘れていた。

だがそれも今は昔の武勇伝、わたしも歳をとった。これはだめだなと自分で悟ったので、たいへん申しわけないけれど、知り合いのご夫婦には電話して釣りの約束をキャンセルさせてもらった。大丈夫ですよ、お大事に、と言ってもらったのが救いだ。通話を終えるとまた倒れてとろとろして、次に気がついたのは次の日の夜中だった。そこからまだ寝て、今はようやく元に戻ってきた。

家族ネタと病気自慢は老害じじいの文章の典型だ。でもまだトムクルよりは歳下だ。

トムと比べてんじゃねえ、と妻は言う。

クリーニング屋さんのおばちゃんに「親よりえらくならなくちゃ、いけないよ。」って言われて閉口していたが、まさか自分が子どもへそう言うようになるとは思わなかった。

「いやあ、やってますねえ。ヘンタイさんですねえ!」ってうちらの間では最高のリスペクト。そんな原稿が今日も届いた。次号も期待してください。

ブラックバスの無認可放流は外来生物法違反です。誰かから〝釣り人が放したに決まってる〟と言われたら、根拠もなく犯罪者扱いするのですか? 名誉毀損ですよ、と冷静に返しましょう。

ってくらいのことを言えないで、なにがバサーの味方のバス釣り雑誌か。メーカーも。流通も。テレビも。釣り業界ぜんぶ。

元気になったら腹立ってきた。

いまここに見えている世界は美しい。テロとか弾圧とか陰謀とか裏切りとか資金洗浄とか権力闘争とかまったく関係ない。
色つきのオスは少なくなってきた。季節のうつろいをオイカワで知る。
おそらくいままでで最小。ちゃんと口にかかっていた。オイカワは小さいからフックも小さくないとかからないというのは誤解。ちゃんとくわせればちゃんとかかる。
川へ行く途中、顔見知りの近所の子どもに会った。ずいぶん会っていなかった。川行くか?と誘ったら行くという。自分の家に戻っていそいでフライロッドを持ってきた。久しぶりに川で見ると、近所の子どもはずいぶん大きくなっていた。背もわたしを越えた。この日の釣りはしぶかった。わたしが立て続けに4、5匹釣ったところで驟雨となり、声をかけていっしょに川を上がった。釣れなかったろ、と聞いたら「一匹釣ったよ」とのこと。ふうん。声も変わったんだな。
[フライの雑誌-直送便] 『フライの雑誌』の新しい号が出るごとにお手元へ直送します。第113号差し込みの読者ハガキ(料金受け取り人払い)、お電話(042-843-0667)、ファクス(042-843-0668)、インターネッ
で受け付けます。第114号は6月15日発行
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〈フライフィッシングの会〉さんはフライフィッシングをこれから始める新しいメンバーに『水生昆虫アルバム』を紹介しているという。上州屋八王子店さんが主催している初心者向け月一開催の高橋章さんフライタイイング教室でも「水生昆虫アルバム」を常時かたわらにおいて、タイイングを進めているとのこと。初版から21年たってもこうして読み継がれている。版元冥利に尽きるとはこのこと。 島崎憲司郎 著・写真・イラスト 水生昆虫と魚とフライフィッシングの本質的な関係を独特の筆致とまったく新しい視点で展開する衝撃の一冊。釣りと魚と自然にまつわる新しい古典。「新装版 水生昆虫アルバム A FLY FISHER’S VIEW」
フライの雑誌-第114号特集1◎ブラックバス&ブルーギルのフライフィッシング 特集2◎[Shimazaki Flies]シマザキフライズへの道1 島崎憲司郎の大仕事 籠城五年
フライの雑誌 113(2017-18冬春号): ワイド特集◎釣り人エッセイ〈次の一手〉|天国の羽舟さんに|島崎憲司郎
○〈SHIMAZAKI FLIES〉シマザキフライズ・プロジェクトの現在AMAZON
フライの雑誌-第112号 オイカワ/カワムツのフライフィッシング(2)
フライの雑誌-第111号 よく釣れる隣人のシマザキフライズ Shimazaki Flies
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『葛西善蔵と釣りがしたい』(堀内正徳)
『葛西善蔵と釣りがしたい』(2013年5月16日発行)