「このままいくと日本の釣り業界は滅亡します」
元・つるや釣具店店主
五十嵐忠造氏インタビュー
> 全文画像形式で公開しました。(2019.10.16)
(前略)
五十嵐 …だからね、何度もいうようですが、数をたくさん釣る人が名人だとか、とにかく釣れればいいという考え方をなんとかしないとダメですね。メーカーにしても、この道具を使えば簡単にたくさん釣れますという考え方をこのまま続けていくのは問題があるでしょうね。で、これは私が釣道具屋をやめたからいえるのかもしれませんが、これ以上むやみに釣り人が増えない方がいいと思うんです。このへんで釣り人を少し減らすことを考えて、そこから再出発しないとどうにもならないんじゃないですかね。
その点ね、フライをする人は多くないですが、もともと数多く釣ろうなんて人が少ないわけでしょ、だからフライは今でも残ってるんだと思いますね。
─ 釣具業界だけでなく、釣り雑誌や新聞なども含めて、何か気になられることはありますか? 本誌も釣り雑誌ですから、エリを正してお聴きします。
五十嵐 いやあ、釣り雑誌はもう売れてないんじゃないですかね。アレ買って読もうって気になりませんよ。こないだも久しぶりにアユ釣りに誘われまして、そのときのことがある雑誌に載りまして、どなたかが教えてくれたので久しぶりに買ってみたんです。でもそれ見たら、こんな雑誌買う人いるのかな?と思っちゃいましたね。
少なくとも多獲主義をなんとかして、数多く釣る人を名人みたいに扱わないようにしていかないとダメですね。そしてこれから釣りをどうもっていったらいいのか?とか、ほんとうの釣りの味わいを楽しめるようなものにしないとね。でもね、雑誌にしても商売ですからね、そうはいっても無理でしょうね。
釣り業界は前から小さな業界だったんです。それをね、いつのまにかゴルフだとか何だとかの業界と同じようにやりはじめた。それじゃダメなんですよ。妙に一般化してスポーツだとかゲームだとかいって…。それじゃ逆行なんですよ。スポーツとかゲームだという意味をとり違えると、つまんないことになっちゃいますね。
これからの時代は、ますます人の暮らしの中で、本来の釣りの楽しさみたいなものが最良のストレス解消になり、より一層求められてくると思うんです。…今、世の中は財テクとかは盛んでしょ。日本はああいう感じでどんどんいっちゃってる。釣りもああいう感じで同じ波に乗ってたら、たまったもんじゃないですよ。
釣りっていうのは個人プレーでしょ。誰にも縛られないでのんびりできるようでなくっちゃいけません。何か妙に一生懸命やって、一生懸命釣り場や魚をくいつぶしちゃいけませんよ。釣道具屋もメーカーも、妙に近代的になって、企業意識みたいなものをもっちゃいけませんよ。少なくとも釣道具屋は家業ですよ。
でね、いずれにしましてもね、人と自然と魚がうまく調和して、その中で釣り人も調和を考えていかないと、将来的には釣りはダメになる一方でしょうね。釣具業界関係者もこのあたりで考え方をかえないと、業界そのものが滅亡しちゃうんじゃないですかね。そう思いますね。
(1988年10月29日 東京・大崎にて収録 ききて:中沢孝)