2020年3月13日に予定されていた、東京水産振興会が水産研究・教育機構に委託している「内水面の環境保全と遊漁振興に関する研究」の成果報告会が、コロナウイルスの影響で中止になった。
2016年度にはじまった四年間の研究成果をまとめる場でもあったので残念だ。
これまでの研究成果は、東京水産振興会のウェブサイトで報告されている。今回中止になった報告会で公表される予定だった内容も、近く掲載されるだろう。
本誌編集部では、昨年2019年3月14日に開催された、「内水面の環境保全と遊漁振興に関する研究」報告会を取材していた。その内容を〈フライの雑誌〉第117号((2019年6月30日発行)で紹介している。
せっかくなので、以下に〈フライの雑誌〉第117号掲載の記事全文を公開する。
(編集部)
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日本釣り場論79
〈フライの雑誌〉第117号掲載
東京水産振興会〈内水面の環境保全と遊漁振興に関する研究成果検討会〉で何が話し合われたか
まとめ 堀内正徳(本誌編集部)
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内水面漁業振興法が登場した関係か、内水面漁業(川と湖の釣り)についての行政の活動が目立つようになっている。
今まで非公開で動いていたものを積極的に公開方向へもっていくなどの動きがみられる。たいへんよいことだ。どんなに素晴らしい研究でも、現場に活かされなければ意味がない。より多くの人が成果を共有することが必要だ。
2019年3月15日、水産庁に近い一般財団法人東京水産振興会の主催による「内水面の環境保全と遊漁振興に関する研究成果検討会」が開かれた。
「内水面における環境保全について、その担い手である内水面漁業協同組合による環境保全活動および遊漁振興に関する実態把握調査」研究の報告会を公開で行なうものだ。会場を水産庁が提供した。
水産庁釣人専門官からメールで案内があったのは2月20日だ。
「都道府県、水産試験場、内水面漁協、釣り関係者等が一堂に会して情報交換や意見交換をする機会は多くありませんので、内水面の釣り振興にご関心のある方々への周知に協力をしていただければ幸いです」
というものだった。
ともすれば水産関係者の内々の集まりに終わってしまいがちな研究報告会の案内を、釣人専門官の立場で発信するのは今までなかったと思う。とても有意義なことだ。
開催が平日の昼間とあって、誰もが参加できる日程ではないし、呼びかけられているのはオブザーバー参加資格で、発言の機会もなさそうだ。
それでもこのような案内は釣人専門官の本来の業務である。どんどんやってほしい。
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本研究のリーダーで当日のメイン司会進行は『イワナをもっと増やしたい!』著者の中村智幸さんである。
フライの雑誌社が『イワナをもっと増やしたい!』を出版したのは2008年だ。11年たって内水面の釣りをとりまく情況はどうかわったか。
内水面漁協の弱体化、極端な生物多様性主義による水産業への規制、ダム建設、あいかわらず生物無視の河川工事、そして爆発したのに止まらない原発と、ネガティブ要素を探せばきりがない。
内水面漁業の先行きは、誰が見たって明るくないのが実情だ。この先、内水面漁業の経済規模はさらに縮小するだろう。20××年には全ての内水面漁協が消失するという予測もある。
でも関係者のアイデアと工夫と努力で、こんなに面白いことができるよね、希望はもてるよねという志向性が今回の会場に通底していたと感じた。とくに各地の水産試験場の現場の方々の心意気が熱かった。
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以下、当日の報告から印象的だった発言をピックアップする。
●内水面遊漁者(釣り人)を増やすこと、川でのレクリエーションをする人が増えること、魚食の普及が、漁協活動への理解を深め、環境保全活動につながる。
内水面漁業振興法ができてから県行政の理解がより多く得られるようになった。
(「漁協による環境保全活動の全体像」玉置センター長)
●釣りの消費額から経済効果を推定した。
釣りにかかる年間支出額の平均は海の釣りが5万8079円、川と湖の釣りが4万4278円。遊漁者数は海が487万5000人、川と湖の釣りが336万人。年間支出総額は海が2831億3513万円、川と湖の釣りが1484億3808万円。
川と湖の釣りの参加人数は、スキーとサッカーを足した人数と同じくらい。
(「内水面遊漁の全体像の把握」中村智幸氏)
●放流しない漁協、志賀高原漁協の活動について。
自然繁殖のみによる資源維持。天然産卵場の設置と保持。種川の禁漁。20㎝の体長制限で親魚を残す。生息環境の保全。
(「内水面の環境保全と遊漁振興に関する研究」長野県水産試験場諏訪支部)
●アユ友釣りの遊漁者は減少傾向にある。ルアーによる友釣りを、囮を使った友釣りに引き込むための方策を検討した。
その結果、アユルアーを導入するか否かをはっきりすること。よく釣れる区間をアユルアーにも解禁すること。導入時の漁協の姿勢により効果に差がでることなどが明らかになった。
(「アユルアーの導入は友釣り遊漁者の増加につながるか?」埼玉県水産研究所)
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報告会の最後にオブザーバーとの質疑応答の時間が設けられた。司会は中村智幸さん。
山梨県桂川の地元・西桂町での釣り人が協力したゴミ拾いイベントを報告した坪井潤一さんに対し、同じ桂川の都留市でも1990年代中頃に釣り人からの呼びかけで同様の活動と地域住民を巻き込んだシンポジウムが複数回行なわれ、2000年にはゴミ捨て禁止条例の施行までいったのに、いまだ状況が改善されていないことを、小誌堀内は伝えた。
イベントはともかく、活動を長期にわたって継続させるインセンティブを見つける研究がより重要だと考える。また先行事例を公開してアーカイブ化しておけば、後発の活動の参考になるのではないか。
つり人社の鈴木康友氏は、こんな研究や報告には意味がない、というようなことを強く発言した。翌4月の釣りジャーナリスト協議会でも、報告に訪れた東京水産振興会の担当者に対して同様の発言をした。
その意図はよく分からない。問題点を明らかにして公共の場で共有し、討議することに意味がないとは、本誌編集部は考えない。
日本の内水面漁業はこのままでは遠からず破綻する運命にあることは、釣りジャーナリストの第一人者である鈴木氏はご存じのはずだ。
「原発事故で釣り人が減っている東京湾の安全性をアピール」するために、釣り好きを標榜する政権党の政治家を東京湾の天ぷら屋形船へ連れ出して、「先生」と呼んで接待するのは自由だが、影響力の大きいつり人社の媒体で、地道な水産研究報告をぜひ応援してほしい。
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当日配布された報告書「内水面における遊漁の振興について(提案書)」は東京水産振興会のウェブサイトで全文PDF公開されています。