より効果的なイワナ、ヤマメ・アマゴの増殖方法が分かった。
〝親魚(しんぎょ)放流〟〝親魚保護〟という新しい提案
日本釣り場論72 中村智幸氏インタビュー
(独立行政法人水産総合研究センター・増養殖研究所内水面研究部 『イワナをもっと増やしたい!』著者)
稚魚放流の増殖効果はもっとも低い
─ 漁協による渓流魚の主な増殖方法として、稚魚放流、成魚放流、発眼卵放流、それに最近では産卵場の造成があります。成魚放流に比べて、稚魚放流と発眼卵放流はよりきれいな魚をふやす方法として、各地で盛んに行われてきました。自分たちの手で発眼卵放流をがんばってきた釣り人も多い。今回、まず最初にうかがいたいのは、中村さんたちの最近の研究で、稚魚放流由来魚、発眼卵放流由来魚と自然繁殖由来魚とのあいだで、おどろくほど生残率がちがうことがわかった、ということなんですが。
中村 稚魚放流と発眼卵放流、自然繁殖の三者間で比較しました。一番目立ったのは、稚魚放流の増殖効果の低さです。
─ 全国の漁協で行われている放流の主流は、稚魚放流でしょうか。
中村 数量的・金額的に最も多く行われているのは稚魚放流でしょう。春から初夏に2~5グラム(3~5センチ)の稚魚を放流している漁協が多いです。幼魚になる前段のサイズです。
─ 稚魚として放せば川で大きくなってきれいな魚になるだろう、という発想ですね。
中村 でも、漁協さんや都道府県が思っているほど、稚魚放流の魚は生き残っていないんです。これからお話しするのは、日本各地のいろいろな川で集めたヤマメ・アマゴ、イワナの計70例のデータの平均値です。データ数が多いので信頼性は高いと言えます。稚魚放流の魚よりも自然繁殖で生まれた魚の生残率は、はるかにいい。自然繁殖魚は6月以降減りはするけど減り具合が非常に低いんです。川によっては ・・・
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渓流魚は20メートルに9尾しかいない
中村 次は漁獲規制、分かりやすく言えば「親魚保護レギュレーション」の研究についてご説明します。
自然繁殖だけでは、やっぱり生まれてくる子供の数は限られます。それだけでは釣り人も漁協組合員も満足しない。自然繁殖を大事にして、それ以上に欲しい部分を放流で上乗せしていくかたちになるでしょう。
釣り人はどれだけ釣ったら満足するのでしょう。アンケート調査を行ったところ、渓流釣り師は一日に8匹か9匹釣りたいと思っているという結果が出ました。一方、日本の渓流には、実際にどれくらいの魚が棲んでいるかが、最近の研究でわかってきました。
釣りの対象になる全長15㎝以上の渓流魚の生息密度の平均値は、水表面積100平方メートルあたり約9尾です。流れ幅5メートルの川であれば、20メートルの距離に9尾です。1㎞の距離なら450尾です。これは野生の魚だけではなく、放流された養殖魚も含めての数値です。
一日にボウズでもいい、4匹くらい釣れればいいというのであれば、おそらく自然繁殖だけでまかなえます。けれどもっと釣りたいと思ったら、やはり放流が必要になります。それが現在の日本の川の生産力の限界です。
そして、一日8匹以上釣りたいという方には、「自然の川では無理です。管理釣り場や釣り堀へ行ってください」とお話しすることになります。渓流魚の釣りとはそういうものなんです。自然環境がいい川だったら、放流したり禁漁にしなくても魚は増えます。しかしたとえば、 ・・・
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『フライの雑誌』第100号記念号より
★取材期間足かけ3年。没一回。
地味ですが非常に重要で意義ある内容です。
ぜひとも多くの方に読んでいただきたいと思います。(編集部)
そして、「日本のマス釣りがよい方向へ変革されていく」という動きは、たとえばこういうことから始まります。
(2)ます漁業 …
(イ)増殖方法
稚魚や成魚の放流を基本とするが,発眼卵埋設,抱卵親魚の放流及び産卵床造成を,次の比率により稚魚放流の一部に換算できることとする。
・ 発眼卵埋設…1,300 粒を種苗放流1kg に換算。
・ 親魚放流…300g程度の抱卵した雌2~3尾を種苗放流1kg に換算。ただし,天然の雄が不足している場合は雌相当尾数の雄も放流すること。
・ 産卵床造成…6箇所の造成を種苗放流1kg に換算。
第5種共同漁業権に係る増殖指針(平 成 2 5 年 8 月 2 6 日)
平成 25 年広島県公告より
都道府県の増殖指針に「親魚放流」の文言がでたのは、全国で初めてでしょう。100号の中村智幸さんの記事を見て、ってわけではないだろうけど、記事中で「こうだったらいいな」と書いたそのまんまが現実になりました。すばらしいことです。気分もいいです。