フライの雑誌-第106号(2015 品切れ)から、〈トピックス〉(P.128)を公開します。
河口湖で「グランドスラム・プラス・ワン」:ブルーギル、ウグイ(40センチ級)、ニゴイ(50センチ級)、ハス、ブラックバスを一日で。|釣りと戦争は似合わない。|BOOKS 原発に侵される海 温廃水と漁業そして海のいきものたち(水口憲哉著) 書生の処世(荻原魚雷著) たすけて、おとうさん(大岡玲著) 目の前にシカの鼻息(樋口明雄著)
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河口湖で「グランドスラム・プラス・ワン」
●今年も初夏から夏にかけての富士五湖・河口湖では、のびのびとフライフィッシングを楽しめた。写真は右回りに、ブルーギル、ウグイ(40センチ級)、ニゴイ(50センチ級)、ハス、ブラックバス。この季節は、水通しの良い浅い砂地に、色々な魚種が集まってくる。ただし、いないときは全く魚っけゼロ。がっかりしないこと。
●ロッドは5番。4、6番でもいい。フローティングラインのみで大丈夫。釣り方は様々。写真のブルーギルは、10番のマシュマロ・ドライをくわえこんだ。ウグイは16番のグリフィスナットのドライを、20ヤード沖をクルージングしている群れに投げたら、先を争うように横っ飛びで出て、入れ食いだった。ニゴイは10番のクロスオーストリッチで底を引きずった。活性の高い時のニゴイはふつうにストリーマーを食ってくる。最大で60センチを超える。
●ハスは、ドライでもニンフでもストリーマーでも釣れる。この魚は10番の黒いクロスオーストリッチを食ってきた。翌週も行ったら、14番のエルクヘアカディスで入れ食いになったので、なんでもいいみたい。ブラックバスは好みのフライパターンで釣るのが楽しい。できれば水面で食わせたい。
●6月、7月ならグランドスラム(4目)の達成率は高い。3目は簡単。回遊性の高いニゴイ、ハスはタイミング次第で難しい。
※編集部追記: さいきんハスはきびしいです。4目はいけます。
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釣りと戦争は似合わない。
〈釣は、人類の原始時代から、吾々と深い因縁を持つているらしい。子供は、すべて釣を好む。吾等の遠い祖先のやうな無心の姿で、子供は釣っている。
釣らう。無心の姿で、釣するために釣らうではないか。
戦争中は、時局に合わせるために、心身の練成であるとか、体位の向上であるとか、健全娯楽であるとか、いろいろの理屈をつけて竿をかつぎだした。そして、世間に憚ること一通りや二通りではなかった。
釣りは、元来そんなものではない。人間の生活の、ありのままのものだ。釣することは、なにかの為になるなどと考えるのは、もうそれは釣りではない。静かに、釣らう。虚心の姿で竿を握らう。…
創刊之詞 月刊つり人創刊号 1946年7月1日〉
●これは第二次世界大戦敗戦の翌年、月刊つり人の創刊号にうたわれた一文だ。ひどい時代から解放された釣り人の、のびのびとした気持ちが伝わってくる。戦争を起こさないように、あらゆる方策を探すのが政治家の仕事だ。なのに戦争を防ぐより戦争の準備にご執心な人々がいる。釣りと戦争は似合わない。戦争なんか起こされたら釣りができない。むずかしい理屈はいらない。ずっと釣りしたいから戦争反対。
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BOOKS
●多くの人の反対と疑問の声を無視して、鹿児島県川内原発が再び動き始めた。原子力発電所の大量の取水は、稚魚や卵、プランクトンなど膨大な生きものを虐殺する。回遊魚は原発の温廃水を避け、その結果として沿岸の漁獲は激減する。原発がいかに海を侵すかを全体的に解明する日本初の書。
●一冊の本には世界を変えるちからがある。寄り道と脱線と本線を往来するのが人生の楽しさだ。ただし道は曲がりくねって暗いので、半ちく書生には不安や悩みがつきものだ。本書で紹介されている本たちが〝書生の処世〟を指し示してくれる。「本の雑誌」の人気連載を全面的に編み直した。「フライの雑誌社の本を読む」という章もある。
●あの愉しい『文豪たちの釣旅』の大岡玲さんが13年ぶりの小説を発表した。古今東西の名作12篇をモチーフにした連作(著者は「伴走してもらった」と表現)。惹句は「こわい。でも逃げられない。」。童話調の文体に油断すると箱の底に引きずり込まれる。収録「ちんちんかゆかゆ」は世襲議員の股間でうずく「トカトントン」。大岡文学は胸の壁に刺さってとれない。
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『目の前にシカの鼻息』がラジオ深夜便で朗読された
●7月31日、NHKの人気番組「ラジオ深夜便」で、樋口明雄さんの単行本『目の前にシカの鼻息』(フライの雑誌社刊)から、「サルを待ちながら」(本誌第86号初出)が朗読された。〈朗読&語り「山に魅せられて」〉という企画でとりあげた三作品の内の、一作品として選ばれた。ほかの二作品は、深田久弥作「日本百名山」より『甲斐駒ケ岳』と、白籏史朗作『夏山行』だった。
●当日、深夜の電波に息をこらして放送を聴いた。南アルプスを駆けめぐるサルとヒトとイヌ、そしてイノシシの息づかいまでが、深夜のラジオから目の前に迫ってくる感じ。古野晶子アナウンサーのすばらしい朗読だった。樋口明雄さんの文章の歯切れの良さ、リズム感をたいへん心地良く感じた。朗読していただいたことで、『目の前にシカの鼻息』にまた、新しい命が吹き込まれたように思う。
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