【公開記事】ソウルの川(堀内正徳)|フライの雑誌-第118号

フライの雑誌-第118号(シマザキ・マシュマロ・スタイル特集|2019年10月15日発行)から、コラム「ソウルの川」(堀内正徳)を紹介します。

みんなが楽しく釣りして、おいしいものを食べていれば、世界平和だと思っている。人間関係は、「こんにちは」、「ありがとう」、「ごめんなさい」、「ごちそうさま」の四語でなんとかなるよ、と若い人を教育してきた。

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ソウルの川

堀内正徳(東京都)


「いろいろな兆候から、晩飯を食うのもあと千回くらいなものだろうと思う」

医大を卒業した作家、山田風太郎は72歳のときに書いた。「もう一食たりとも意に染まぬ晩飯は食わないと志を立て」、あと千回の晩飯の献立を事前につくりはじめた。

ところが、「その企て自体が意に染まないことに気が付いて、そんなばかげた企てを放棄した」。「そうこうしているうちにあと千回は次第に減ってあと七百回くらいになってしまった按配である」。(『あと千回の晩飯』朝日新聞社 1997)

戦中派だ。グルメというのでもなく食べ物にはこだわった。晩年に自宅で転んで倒れ、自分で「あ、死んだ」と奥さんに言ったというエピソードがある。その時は死ななかった。

60代半ばで韓国を旅したおり、ソウルの南大門市場をこんな風に活写している。

「迷路のごとき通りの両側にあらゆる食料品──魚、干物、野菜、果物、それに豚の頭までが盛りあげられて、ケンカのような売り声が耳を聾するばかり、雑然、紛然、轟然たり。(中略)その狭い通路のあちこち、やや広くなった辻に台や椅子を出し、酒飲む人あり、大鍋に煮たものを食う人あり。(中略)これぞ人間の生命の大渦、大噴火口と見ゆ」(同書)

今年(2019年)の夏、ソウルへ初めて行くことになった。家族旅行の観光だ。釣りはない。釣りのない旅支度が気軽だと知ったのは最近だ。トランクだってウェーダーがないとマラブーのように軽い。スカスカして不安だ。

釣りのない旅行の楽しみは、おいしい食べ物と相場が決まっている。

ソウルへ行ってきますと水口憲哉氏に伝えたところ、ぜひ市場へ行ってごらんなさいと言われた。町で面白いのは市場だよと。

ソウル市内には地下鉄で移動できる範囲で、いくつも市場が点在している。それぞれに衣料品、野菜、海鮮もの、乾物、屋台などと特色がある。屋台、買い食い大好きだ。

千回の晩飯にはほど遠いが、食べたい韓国料理のメニューを、あらかじめ妻がピックアップしていた。二泊三日の旅程へあてはめていくと、一日六食以上でないとクリアできない。人の領域を越えている。家族一丸となってがんばろう、と誓った。

みんなが楽しく釣りして、おいしいものを食べていれば、世界平和だと思っている。そして人間関係は、「こんにちは」、「ありがとう」、「ごめんなさい」、「ごちそうさま」の四語でなんとかなるよ、と若い人を教育してきた。

自分は釣りとおいしいもの原理主義者だ。

─── ソウルに着いてから帰るまで、じつに見事によく食べた。タッカンマリ、サムギョプサル、カンジャンケジャン、キムチ、焼き肉、スイーツ色々、屋台あれこれ、ぜんぶおいしかった。

ただ、入った喫茶店のコーヒーはどこも浅煎りのサードウェーブ系だった。バケツのような大カップに、出涸らしみたいな液体がなみなみと注がれてくるのには閉口した。

四語だけ覚えた朝鮮語をやたらと振り回して、たいへん楽しい旅行となった。

ソウル市の中心部を清渓川(チョンゲチョン)という清流が流れている。1970年代に高速道路建設で暗渠化した川を、2005年に人工的に復元した。近くを流れる漢江からの水をポンプアップして今年で12年。

岸から見ただけでも、オイカワ、ムギツク、カマツカ、ナマズ、コイ、フナ、金魚、ブラックバス、ニゴイ(すべて〝っぽい〟)が、気持ちよさそうに泳いでいた。岸には樹木が茂り小鳥がさえずっている。市場のそれとはちがう、静謐な生命力に満ちあふれていた。〈清渓の奇跡〉と呼ぶ人もあるらしい。

水辺への態度にその国の民度が現れる。無駄なダムとか護岸工事だとか、川に対して過去に行った過ちを認めることはできる。修正する技術もある。そしてもう間違えませんと、次世代に伝えることができる。

暗渠の上で自由に商売していた屋台の人々を強制的に立ち退かせたりとか、清渓川の復元はきれいごとでは収まらなかったと聞く。ただ現実はこうなった。世界有数の人口密度であるソウル市のど真ん中で、清渓川の水辺だけ、エアポケットのように別世界だった。

日本橋川でもできるだろうか。

〝清渓の奇跡〟

清渓川。魚もカメもカニもネコも人もたくさんいる。ずっと見ていられる

屋台が集まった広蔵市場。お姉さんに親切にしてもらえた。こういう記憶はずっと残る。

ソウル市内の釣具店。店の外のパイプ椅子に座っていたアジュンマに導かれ、ルアーなど買った。子どもがヤクルトをもらった。

フライの雑誌-第118号(品切れ)掲載

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シマザキフライとは、桐生市在住の島崎憲司郎さんのオリジナル・アイデアにもとづく、一連のフライ群のこと。拡張性が高く自由で“よく釣れる”フライとして世界中のフライフィッシャーから愛されています。未公開シマザキフライを含めた島崎憲司郎さんの集大成〈Shimazaki Flies〉プロジェクトが現在進行中です。

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