思いついたことをすぐそのまま口にしたり、後先考えないで即行動に移す人々がいる。そのせいで周囲に迷惑をかけることもある。近年になって横文字の症例名がついた。この特質をつよく持っている人々の一部は、社会で〝生きづらさ〟を感じるという。
内面的な症状は、誰にでも多少そのけがあったとして、平均値より発露が激しいのなら、お医者さんが病気として認定してくれる。お医者さんからあなたは病気だと言われると、安心して〝生きづらさ〟がやわらぐ人もいる。それは医学の進歩だ。
子供の頃から自覚がある。わたしもそっち系だ。わたしの症状はお医者さんに相談するほどつよくもなく(多分)、閾値を行ったり来たりで(おそらく)、なんとなく曖昧にしのいできた。それゆえに、時々自分で(あ、いま俺やばいぞ。)と立ち止まり、冷や汗をかくことがある。
釣りに行く車中で同行者と色々な話をするのは楽しい。初めての相手との最初の釣りには、出会い系の興奮がある。軽くロックアップして実力を推し測りつつ、間合いを詰めていく。話題と価値観と会話のテンポが合えば、よい釣り仲間になれる。合わなかったらそれはそれでまた今度ね。
以前、とあるおじさんと初めて釣りに行った。お互いが今までしてきた色んなフライフィッシングの話をしている中で、そのおじさんが元プロの料理人だと知った。そこで「ぶんぶんチョッパー持ってますか。」とわたしは言った。
わたしの頭の中では、フライ→マテリアル→料理人→ぶんぶんチョッパー、と閃光のようにつながったのだが、一般的には(なにいきなり初対面で、なんの脈略もなく、ぶんぶんチョッパーとか言ってんのコイツ。)と指弾されるはずの唐突な発言だった。
自分で言っておいて(あ、またやっちゃった。)とわたしは瞬時に反省した。この〝瞬時に反省〟も、そっち系の特質のひとつだ。前もって意識していても抑えられない。この車内の状況をどうしよう。どうしようといって、何か他のことを言ったりやったりしてごまかそうとすると、余計に事態が悪化することを、長年の経験で知っている。ああ、やっぱ生きづらい。
ところがそこで、おじさんは前を向いたまま平然として、「ぶんぶんチョッパー持ってます。」と言った。つまりこちらの内面の葛藤はともかく、「ぶんぶんチョッパー持ってますか。」「ぶんぶんチョッパー持ってます。」という、表面的にごくあたり前の会話が成立していた。なんということもない。なんの問題もない。
その理由は、なるほど、そうか、そういうこともあるか。あるよね。
おじさんはいま一番よく一緒に釣りに行っている釣り仲間になった。
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