自分で作るものだから
FM桐生 Happy スマイル♬ 2022年12月20日放送
ナビゲーター:宮川麻里さん 齋藤美恵子さん
ゲスト: 島崎憲司郎
あえて狙ってやってるんです。子供の頃の感性を
いつまで保てるかを念頭に置いています。
そのほうが魚が釣れるフライができますね。(島崎)
── 本日のゲストは有名な島崎憲司郎さんです。
島崎 有名じゃないです。裏方です。
── 世界中の人から愛されているって書いてありますよ、「フライの雑誌」の126号に。表紙が「よく釣れる隣人のシマザキフライズ」ですって。よく釣れるんですね、島崎さんのフライは。
島崎 よく釣れるんですよ、私のは(笑)。あまり見栄えはよくないけど、実際に釣れるんだっていうことを、長年皆さんが証明してきてくださったんです。私のフライの中の使える部分を皆さんがご自身の釣りに色々と取り入れてくださる。本当にありがたいことです。
── どなたかがシマザキフライを作って、これを使うとめちゃめちゃ釣れるわよ、って言ってくださるわけですね。
島崎 釣れるんだ、って自分で言うと当局発表、大本営発表になっちゃうでしょ(笑)。他の方が釣れたよ、と言ってくださるほうがリアリティありますよね。ヤマメっていう魚がいるでしょ。大きいので30〜40㎝。50㎝以上の大ヤマメを、ドライフライっていう、水に浮かべて釣るフライで釣るのはとても珍しいんです。
その大ヤマメを、私の考えたフライパターンで釣った人がいるんです。しかも明るい時間に釣った。東京の西村のおじさんっていうんですけど、西村のおじさーん、お元気ですか。これがすごくシンプルなフライなんですよ。M&D(マシュマロ&ディアヘア)っていうんです。
── すごいですねえ。
島崎 最初に発表したときは「こんなんじゃ釣れないよ。」って言っていた人が多いんですけど、実際西村のおじさんが釣ったし、証拠があるから。動画だってある。M&Dはじめ、シマザキフライを使ってくれた皆さんは大きい魚を釣っている。魚は正直なんです。人間から見てきれいだとか醜いとか、一切関係ないですからね。
── 魚が「おいしそうだな」って思わないとだめですよね。魚の目線で見るんですね。
島崎 人間の目で見て、よくできているフライはいっぱいあるんです。私のフライは、不細工系って言いますかね。不細工なんだけども憎めない感じの、ポップ系って感じでしょうか。子供が作ったみたいな感じがしますね、とよく言われます。
── なるほどねえ。
島崎 あえて狙ってやってるんです。子供の頃の感性をいつまで保てるかを念頭に置いています。そのほうが魚が釣れるフライができますね。
誰でも子供の頃は鋭い感覚を持ってるんです。大人になるにつれ、あれやっちゃいけません、これやっちゃいけませんと制限されちゃう。私の場合はずっと進歩しない。っていうか、子供が残ってるんでね。だから珍獣とか変人とかいわれますけど。
10年がかりでやってる[シマザキフライズ]では、
廃番フックも使った面白いフライがいっぱいできているんです。
廃番だって私にとっては自分で作ったものですからね。(島崎)
── 「フライの雑誌」の126号には、釣りバリの写真もたくさん載っていました(「廃番入り TMCフライフック全カタログ」)。ハリの種類が山盛りあるんですね。これを全部島崎さんがデザインしたんですか。
島崎 フライフックと言います。そのデザインを45、46年か、もっとやってるのかな。
その号で、私が今までデザインしたフライフックをコンプリートしてくれました。通常は現行品しか雑誌には載せないんですが、もう廃番になっているフックも含めて、編集者がまとめてくれました。古手の釣り人は昔使っていたフックを見て、いい資料だって喜んでくれたみたい。
何しろメーカーにも記録がないんですから。作ったほうからすると、勝手に廃番にされるのは寂しい限りなんですけどね。
私が10年がかりでやってる[シマザキフライズ]っていうプロジェクトの中では、廃番になったフックも使って面白いフライがいっぱいできているんです。商品としては手に入らないけど、私にとっては自分で作ったものですからね。
── 自分の中では廃番じゃない。
島崎 そう。余計に力入っちゃいますよ。廃番チクショウって、ふざんけんじゃねーよってね、ここだけの話(笑)。廃番フックを使ったフライに限って、いいのができちゃう。神様っているんですね。
── 本当ですね(笑)。
島崎 一つ一つで、フックの形が違いますでしょう。さらにそれぞれにたくさんのサイズがあるんです。一つの品番のフックに対してサイズが10通りなら、50品目なら500アイテムになる。メーカーは一つのフックだけで何十万本も作らなくちゃいけないので大変です。在庫を持つと在庫利益になるし。廃番にする経営上の理屈はわかるんですけどね。
たとえば、銀座あたりのいいとこのお寿司屋さんは、儲からない寿司ネタでもちゃんと揃えておきます。それが一流の寿司屋の証です。私は料理屋をやっていたんですけど、中国料理でも全然収支が合わない高い素材があります。乾燥したアワビとか、フカヒレとか燕の巣とかね。
── おいしそうです。
島崎 めったに出ないような高価な素材でも、お店をやる以上は、揃えておかないといけない。そうでないと最低限ちゃんとした料理屋だってことにならないと思います。
── なるほど。
島崎 釣り具のメーカーも同じですよ。廃番です、って威張ってるんじゃあ、どうにもならない(笑)。
毛バリ釣りは日本にもある。スペインにもある。
イタリアにもある。別にイギリス発祥ってわけじゃなくてね。(島崎)
── ハリの先が二股に分かれているのもありますね。
島崎 ダブルフックと言います。フライフックのメーカーはイギリス、ノルウェー、フランスにも地場産業的に昔からある。日本の我々は後発です。適当に作ればいいものではなくて、決まりごとがいっぱいある。
フライフィッシングはイギリス発祥で500年の歴史と言われてるけど、本当はイギリス以外の地域でもやってたんです。
たとえば中世16世紀のドイツは封建社会で生き物は全部領主のもので、川にいるマスも森のキツネもウサギも農民は獲っちゃいけなかった。ただ、子供が生まれたとかお母さんが病気になったときは、獲って食べることは黙認されていた。
── 栄養をつけるために。
島崎 そう。でもその頃、領主からの税金や強制労働がきつくなって魚も動物も獲るのを禁止された。怒った農民が反乱して始まったのがドイツ農民戦争です(1524年〜)。10年くらい続いた後で、領主が「羽根と糸の釣り」に限って魚獲りを許可したという文書が残っています。(『中世の風景(上)』中公新書)。でもこれは訳し間違いなのが最近分かった。
── どう訳すべきだったんですか。
島崎 羽根と糸の釣りって、要はフライフィッシングです。人間は同じようなことを考えるんです。川に魚が泳いでいて、パクっと虫を食べてるのを見ると、それにハリがついたら釣れるだろう、って誰でも思う。
だから毛バリ釣りは日本にもある。スペインにもある。イタリアにもある。別にイギリス発祥ってわけじゃなくてね。
その頃は自分の家でニワトリやアヒルを飼って、毛糸も紡いでいた。縫いバリを曲げて、毛糸を巻いてアヒルの羽根でも結べば、立派なフライになります。皆さん、そういうハリで魚を釣っていたみたいですよ。
1年に1回しかない休みを使って粘土をこねて、
自分のためになにかを作るのが、本当の芸術です。
自分のために料理を作るのはそれに近い。(島崎)
── 島崎さんちにはハリにつける鳥の羽根とか動物の毛とか、カラフルな材料がいっぱいありますね。
島崎 そう、もの凄い量なんですよ。
── お家の中にいっぱい(笑)。
島崎 家の体積よりそっちのほうが多い(笑)。
── 本当にいっぱいあるんだもん。
島崎 恥ずかしい話ですけど、キッチンで仕事してるんですよ。フライを作る場所は家のなかのあちこちにあるんだけど、一番便利なのがキッチン。キッチンのテーブルって大きいでしょ。お腹が空いたらご飯を作るのにも都合がいい。ところが物が多すぎて、電子レンジの扉が物に埋もれて開かなくなっちゃった。でも電子レンジがなくたって……。
(この後、電子レンジを使わないアイデア料理の話が延々と続く)
うちは一人暮らしだけど冷蔵庫は大きいです。
── 大きいと便利ですか。
島崎 家族がいる方は、ピンチの時に手伝ってくれるでしょ。でも一人暮らしは全部自分でやらなきゃいけないから、緊急時の対策を考えれば冷蔵庫は大きければ大きいほどいい。3階にも冷蔵庫を置いているし、ミニキッチンもあります。
料理もフライ作りもそうですが、自分のために何かやるってやっぱり面白いことですね。
── たしかにそうですね。
島崎 たとえば1年に1回しか休みがない人が、その休みを使って自分のために粘土をこねて、なにかを作るとすれば、これは本当の芸術です。
自分のために料理を作るって、それに近い。儲けようとか、人においしいって言ってもらおうという発想じゃないから、本当に自分の好きなように作るわけです。出来上がりも自分で決めればいいんだから、すぐバージョンアップしちゃう。
面白いやり方がいっぱいあってね。たとえばサツマイモなんか、普通の安いオーブンがあれば……。
(この後、お手軽なサツマイモのオーブン料理の話が延々と続く)
── 第126号の「フライの雑誌」に出てくる島崎さんのフライには、全部名前がついています。「アグリーニンフ」ってどういう意味ですか。
島崎 アグリー(ugly)って見栄えが良くない、不器量みたいな意味です。川虫っているでしょ。それ系のフライをニンフと言うんです。アグリーニンフは〝不細工なニンフ〟という意味です。
── でもすっごくよく釣れる、って本に書いてあります。
島崎 本当に釣れるの。最初は色んなものがついていたんですけど、それをそぎ落としていった。あれこれやり倒して、最終的にその形になったんです。そうしたらすっごく釣れる。アグリーニンフを持っていれば釣れないってことはないので、皆さん保険みたいに持ってますね。桐生川で生まれたフライです。
── 私にちょうどいいフライを見つけちゃったみたい(笑)。「パピーリーチ」っていうフライもあります。
島崎 パピーって子犬のことです。そのフライの本当の作り方は、皆さん知らないんですよ。唯一、桐生の髙畠宏さんが知っている。私が伝えたから。髙畠さんは中禅寺湖でこのパピーリーチを使ってものすごく釣っています。本当にシンプルなフライですけど、これが釣れるんですね。来週の26日に編集部が東京から教わりに来るみたいです。
── 私も行きたいなあ。
あとは余熱で置いておくだけ(島崎)
── あのう、島崎さんがやってる、目玉焼きのおいしい作り方があるって聞いたんです。最後に教えてくれませんか。
島崎 はいはい、目玉焼きね。フライパンを1分10秒くらい中火で熱します。火を消して、オリーブオイルをスプレーします。卵を2つ入れてフタをして、あとは余熱で置いておくだけです。
── それだけ。簡単ですね。
島崎 ステンレスのフライパンでも全然くっつきません。帝国ホテルの目玉焼きみたいになります。(笑)
── 焼く前の卵は室温ですか。
島崎 どっちでもいいですよ。卵が冷蔵庫で冷えてるなら、余熱を10秒増やすとか様子を見てください。半熟の具合がべらぼうに上手くできます。おすすめ。何かやりながらできちゃう。
── お腹が減ってきちゃった。今日はおいしい話と、すごく技術的な話も聞かせていただきました。
島崎 目玉焼きだけでも試してみてください。
── 今日のゲストは、とても楽しい毛鉤職人、島崎憲司郎さんでした。どうもありがとうございました。
島崎 どうも失礼しました。
(了)
…
おかげさまで「フライの雑誌」次号第128号は、
8月上旬の発行が決まりました。
第126号〈隣人のシマザキフライズ特集〉続き。島崎憲司郎さんのスタジオで2022.12.26撮影。狭いシンクを泳ぐフライ。まるっきり生きてる。これ笑うでしょ。まじやばい。(音量注意) pic.twitter.com/vFuHHPEJvh
— 堀内正徳 (@jiroasakawa) December 27, 2022
フライの雑誌 124号大特集 3、4、5月は春祭り
北海道から沖縄まで、
毎年楽しみな春の釣りと、
その時使うフライ
ずっと春だったらいいのに!