『フライの雑誌』第115号(2018年10月14日発行)の特集◉水面(トップ)を狙え!から、「オイカワは水面の虎である|ドラグをコントロールするスイングの釣り」(堀内正徳)を公開します。
本稿改訂版を掲載した単行本『身近で楽しい! オイカワ/カワムツのフライフィッシング ハンドブック 増補第二版』は発売中です。
・
オイカワ釣り
オイカワは水面の虎である
ドラグをコントロールするスイングの釣り
堀内正徳(本誌編集部/東京都)
・
ある日、近藤雅之さんと話していて、近藤さんもじつはオイカワ好きだと判明した。理由として、オイカワの水面のフライへのアグレッシブさは別格だからという。
やる気のあるオイカワの水面絡みのフライへの執着というか、いったん火がついてからの光速ドリブラーっぷりは、エムバペ級だ。
「オイカワはスイングしているフライを追いかけて食う。ヤマメやイワナはめったに追い喰いしないし、フッキングしない。オイカワはヤマメやイワナより、サーモンやスティールヘッドに近い。」(本誌第112号)
オイカワはそもそも水面のものを食べやすい頭の構造をしている。
遊泳力は高くないと勝手に思っていたが、流れの中での身のこなしをよく観察すると、身体のサイズから考えれば自由自在に水中を切り裂いて泳いでいる。いい季節のオイカワはファイトも相当なものだ。
オイカワがあの性質のまま、もし体長が1mあると想像すると、スティールヘッドよりすごい。巨大な尻ビレを震わせて、水面を走るフライを狂ったように集団で我先に追いかけてくる追星ガツガツの兇暴なオイカワ、いやお前はすでに虎だ。しかも百万匹いる。
近所の川の水面に今日も嵐が吹き荒れる。オイカワが虎ならこっちは虎ハンターだ。小林邦昭だ。
フライは探さない
2018年のオイカワ釣りを振り返ると、水面のとくにスイングの釣りにこだわったシーズンだった。
フライが流れている水深は、サーフェイスフィルムからせいぜい2㎝以内。流速が適当なら流れのまま流す。盛期であれば流速毎秒30〜40㎝が目安だ。それより弱かったり強かったりすれば、ドラグのかけ具合で意図的にスイングのスピードをコントロールして、魚のいる辺りへ流す。
水面下にあるフライは視認できないし、視認するつもりもない。フライラインの張りや、フライがあるだろう周辺の水面に浮かぶライズリングでライン合わせ(第112号参照)する。
ドライフライを使っている時も、フライそのものが見えなくても釣りに全く支障はない。むしろフライを探そうと思わないほうがフッキング率は上がる。座頭市の要領だ。
ただしキャストした後、どこにフライがあるか分らないようでは話にならない。一定のキャスティング技術と、自分が使いやすいリーダーシステムの選択は必須である。
短くて柔らかい竿がいい
今年新しいロッドを導入した。昔のラミグラスのグラスロッド3番のバットを3インチ詰め、小さなグリップを装着し直した6フィート3インチ。ラインは1番でシーズンを通した。竿にはちょっと軽いが、魚をかけるまでも魚がかかってからもラインは軽いほうが面白い。
まして相手はオイカワだ。
ブランクを勝手にカットしたので、バットとミドルの間でテーパーが分断されミドルから先がぶるんぶるん震える。そのかわりグリップ部をねじるようにすると、慣性でラインとリーダーの先まで揺れが伝わって、ライン合わせが効く。
キャスト距離は3、4ヤードから、7、8ヤード。その先にティペットまで入れて6フィートのリーダー。
オイカワ釣りでは年々、むやみに遠投しなくなっている。オイカワはすぐ足元にいる。あえて遠くへ投げてかけるのもいいが、流れが見た目以上に複雑なオイカワの川でドラグを意図的にコントロールするには、投げすぎると釣りがつまらなくなる。
あえてトリックキャストを駆使して、ラインの落とし方やメンディングの工夫に余地を残したほうが、大人のフライフィッシングっぽいかなと最近思う。
竿は短くて柔らかい方がカーブキャスト、リーチキャスト、メンディングがやりやすい。ストレートラインだけだとすぐスレて、たくさんは釣れない。
釣れるパターンは日替わりで
今年地元での初オイカワは3月26日だった。渕尻の緩流帯の鏡に魚がたまっていた。川底が小砂利でカケアガリになっている。流速は毎秒10㎝。ライズはなかったが22番のピューパをリーダーグリースでべちょべちょにして、水面へそっと落としたら食ってきた。
4月16日、増水で下流から群れが来た。同じポイントでも水面に置くフライラインの角度、形状を変えるだけでアタリが続く。
5月4日、魚の大移動が始まった。昨日まで三日間連続で入れ食いだった瀬で反応がない。細軸、太軸、ハックルあり、なし、ドラグ、フライパターン、ドリフトを変えて探ってみたが、いない魚は釣れません(中馬さん名言)。
上流の浅いプールで18番ソフトハックルを水面へ落として入れ食いになった。川と魚の状況が毎日違うことには、毎日川へ立ってないと気づかない。そしていったん気づいてしまうと、さらに毎日川へ立ちたくなる。
6月28日、一昨日は強い瀬尻で今季初の色付きオスが釣れた。一気にオスが増え、ストレッチボディ式アイカザイム20番にヘッド&テールで飛び出してくる。夕方プールでライズの嵐に遭遇、よせばいいのについ手を出した。オポッサムニンフをドライで使う得意の戦法で釣ったが、最終的には28番の極小イマージャー。こんな神経質な釣りしたくない。楽しいよう。
7月2日、色付きオス狙いの最盛期。流れの芯から良型のオイカワが16番のフライを追う。ふつうに渓流釣り。楽しくないはずがない。今日はフライを選ばれた。速い流れのなかで小さいフライをよく見ていると思う。
ヤマメ釣りでも同じじゃないか
オイカワの流し釣りの場合、多分フライパターンそのものや色の違いを選んでいるのではない。フライの形状とフックの重さによるスイングする際の水流への引っ掛かりの微妙な違い、数ミリ程度のタナの差が魚の食いの差に現れるのだと思う。
フライは魚に食ってもらうためのものだから、人間の目から見えるかどうかではなく、魚からどう見られるか、どう流れるかが大切だ。フライは見えなくていいと割りきれば、水面がらみの釣りの幅は格段に広がる。今年はそれを実証した。心眼の釣りだ。少しだけ釣りが上手になった気がする。
たぶん渓流のヤマメ釣りでも、同じ発想のアプローチはよく効くと思う。
来年の渓流釣りが愉しみだ。
・・・
フライの雑誌-第128号
特集◎バラシの研究
もう水辺で泣かないために
…
フライの雑誌 124号大特集 3、4、5月は春祭り
北海道から沖縄まで、
毎年楽しみな春の釣りと、
その時使うフライ
ずっと春だったらいいのに!