「海洋放出を漁業者は認めない」
濱田 武士(北海学園大学経済学部教授)
東京電力福島第一原子力発電所の敷地内タンクに貯まり続けているALPS 処理水の海洋放出計画に対して、日本の漁業者は反対の姿勢を貫いている。本稿では、現在まで続く原子力災害=原発事故の影響で、苦しい立場に置かれ続けている福島県の漁業や水産物マーケットの動向などを踏まえ、海洋放出計画に対して漁業者が不信感を抱き、反対を表明する理由を明らかにするとともに、国として果たすべき責任について述べる。
海洋放出が東電の「考え」から国の「考え」に
以前この状態の水はトリチウム水と呼ばれていたが、トリチウム以外の核種が完全に取り除かれたわけではないのでALPS処理水と呼ばれるようになった。トリチウム濃度が高いゆえに、このままでは処分できない。
漁業者は、生態系を壊してしまう干潟などの臨海埋め立て開発計画や、臨海部での発電所の立地計画については抵抗してきた。発電所については、原発に限らず、火発でも温排水を放出するからである。また、ダム建設、河口堰建設、干拓事業、原生林における大規模圃場開発、河川近くの畜産施設の立地など陸域の開発についても抵抗してきた。これらの開発は陸域から流れ込んでくる水量や水質を変えてしまう可能性がある。こうした計画にはことごとく抵抗してきた。漁業者らは水環境に影響を与える計画を生理的に受け入れられないのである。
開発サイドは問題があれば対処するとして、公害協定を結んだり、補償金を支払ったり、基金を積み上げたりして漁業者との間で妥協点を探ったのであった。そのうち、漁業者の抵抗力が弱まり、やがて開発が進められてきた。
開発行為は漁業者らの生業よりも国策や企業の利益を優先するものである。それらの開発のたびに、生業として営む漁業者らの誇りに傷がつけられてきた。抵抗してきた漁業者たちの間に残ったのは屈辱感であった。
理論的に安全だとしても、それが正しく運用されているかどうかである。多くの漁業者は安全性よりもこの点において疑念をもっている。国や東京電力を信じられるかどうか、ということである。
ALPS処理水の海洋放出は福島産あるいは東北産の魚の販売を不利な状況に置くことに他ならない。
ALPS処理水は、燃料デブリに触れた高濃度汚染水に由来するため、どうしても海に流すことに抵抗感が拭えない。
その背景には、年に1、2度ぐらいという極わずかな頻度ではあるが、放射性セシウムの基準値を超えたクロソイなどが見つかる、ということがある。
本当に危機であるというのならば東京電力という私企業に運営を任せるのではなく国営にして国家管理にすべきではないだろうか。
岸田文雄首相が全漁連に訪問し、理解を求めるという報道(7月16日:共同通信)があったが、漁業者が反対する意向を覆す可能性は低い。注目したいのは岸田文雄首相がどのような決断をするかである。
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