2023年1月16日、北海道大学七飯淡水実験所へ、尻別川の未来を考えるオビラメの会から、「イトウ養殖幼魚の昆布巻き」についての公開質問状が送られた。
「イトウ養殖幼魚の昆布巻き」の元記事はこちら。なにも勉強していない記者が、聞こえのいいことを都合のいいように書き飛ばし、それをそのまま載せた印象。釣り、水産、生物多様性、外来種関連ではよくある系の記事ですね。記者さんは自分が分からないジャンルなら書かなきゃいいのに。調べもしないで書くから困る。これとかもそうだけど、新聞記者のレベルが総体的に劣化している。悪貨が良貨を駆逐するのはもったいない。
以下、オビラメの会の質問状。
前略 当会は、絶滅危惧種イトウ尻別川個体群の保全・復元を目指して活動する市民グループです。さる1月8日づけの「北海道新聞』に掲載された記事「『幻の魚』イトウ 養殖幼魚を昆布巻きに 北大七飯淡水実験所」を拝読し、当会会員一同、強い違和感を覚えました。生物多様性保全の先導者とご期待申し上げる北海道大学が、失礼ながら、なぜこのような「愚行」に走られるのか、ぜひご説明いただきたく、本状をお届けいたします。
(略)
質問1 イトウ(Parahucho perryi)は、IUCNレッドリストCr、環境省レッドリストEn、北海道レッドリストEnと、いずれも最高度の保全対象種と認定され、北海道内の各生息河川流域ではおもに1990年代から、当会をふくめ、各地の地元グループが専門機関や自治体などとともに、それぞれ苦労と工夫を重ねながら、さまざまな保全復元対策に取り組んでいます。そのような状況下で、同じイトウを、養殖による「余った幼魚」(記事)だからと商品化し、「幻」と銘打って、野生個体群の希少性を販売促進に利用するやり方は、倒錯しているとしか思えません。ご見解をお聞かせください。
質問2 絶滅に瀕した個体群の保護管理システムや、生物の移動に関する法規制は未整備です。とりわけ淡水域では、養殖施設由来の外来生物が在来生態系に深刻な被害をもたらし続けています。
質問3 記事によれば、約80年前からイトウの増養殖研究を継続中とのことですが、どのような研究でしょうか。また、その成果がこれまで各地個体群の保全・復元に活用された事例があればお知らせください。
オビラメの会をはじめ、道内にはイトウの保護を目的に活動している民間グループがいくつかある。イトウ保護連絡協議会はその連携組織だ。構成員は地域住民、釣り人、自然愛好家など。
「フライの雑誌」第81号(2008)のイトウ特集でも紹介したように、どの民間グループも手弁当で、少ないメンバーが文字通り骨身を削って、私費を投じて、長年努力してきている。小誌編集部が取材しただけでも、本当にたいへんな苦労だとわかった。
あらためて北海道新聞の記事を読み直すと、記事末尾でとってつけたようにイトウ保護について触れているだけで、基本は珍しいイトウ食を能天気に煽っている。産卵のために遡上してきたイトウの親魚を隠れて待ち受け、ヤスなどで殺す人がいまだにいる現実を理解していない。配慮が欲しい。
北大七飯淡水実験所は、近大マグロのようにイトウの昆布巻きで北大をPRしたかったのだろう(パッケージにわざわざ〈北大育ち〉と入れている)。マスコミ対応を含めて脇が甘かった感はある。食糧増産のために魚を養殖で増やすのは水産の正義だが、イトウの昆布巻きの正当化のためにSDG’sとやらを持ち出すのは、流行りとはいえさすがに無理がある。
イトウは水系により遺伝子が異なる。地域個体群ごとの保全・復元が重要だ。もとは人間のせいとはいえ、気の遠くなるような手間と時間と、深い理解、関係者の協力が欠かせない。
北大七飯淡水実験所は公共性の高い研究機関だが、民間グループと連携したイトウの保全活動は行っていない。なのに〝余ったイトウ幼魚を昆布巻き〟で新聞に載っては、仕事でもないイトウ保護へ身体を張ってきた側が違和感を持つのは道理だ。
イトウの昆布巻き報道について、「オビラメの会」以外のグループから、北大への質問・抗議はなかったようだ。
「オビラメの会」も一員である「イトウ保護連絡協議会」は、北海道内の各流域でイトウの保護活動をしている10のグループの連携組織だ。2008年、北海道庁による突然のイトウ釣り自粛お願い騒動が勃発した。経緯を本誌第81号の特集「幻の魚 イトウ釣りを考える」に記録している。
結局、道庁からのイトウ釣り自粛のお願いは撤回されたのだが、その際、議論の中心になったのが、イトウ保護連絡協議会だった。今回、連絡協議会が議論の場を形成するのかと思ったがそうではなかった。
強い言葉の応酬もあった今回のやり取りにおいて、イトウの棲みやすい北海道の河川環境を大切にしたいという思いは、イトウの現在と未来に関心を持っている者同士で、共通していることが分かった。
きっかけは「昆布巻き」でも、道内各地の現場で汗水を流している民間グループと、大学(と、北海道行政)がイトウの保全・復元について真剣に議論して向き合うのは、いいことだと思う。
それにしても「イトウの昆布巻き」はパワーワードすぎた。
(堀内正徳)
> 『フライの雑誌』掲載のイトウ関連過去記事はこちら。
オビラメの会が管理している有島ポンド。尻別川固有の遺伝子を引き継ぐイトウたちを飼育している。
イトウの産卵期には各遡上河川の見回り活動もある。もちろん手弁当。イトウへの愛情がなせるわざとはいえ、民間ができる労力と資金に限界はある。なのに、大学がそっぽ向いてイトウの幼魚の昆布巻き売ってるんじゃあ、の気持ちはわかる。
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