『フライの雑誌』第114号(2018年発行・売り切れ)から、〈[Shimazaki Flies]シマザキフライズへの道 Ⅰ |「ちゃんとやっているから、安心してください」 籠城五年〉を公開します。
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籠城五年
●[Shimazaki Flies シマザキフライズ]の企画が初めて広報されたのはフライの雑誌102号(2014夏)だった。前段階を含めるとプロジェクトが動き出してから早五年。シマザキデザイン・インセクトラウトスタジオにこもり、ひたすら[シマザキフライズ]に集中し続ける日々。今年の賀状の署名の上に「世捨人」と記したのも満更ジョークではなく、人づきあいや様々な物事を犠牲にし、思うところあって頭も僧形に丸めた。「まるでカッパドキアの修道士だよ」とはご本人の弁だ。「シマザキフライズはどうなってますか」、「いつ出るんですか」という読者からの問い合わせは日を追うごとに増えている。しびれを切らした編集部は4月末に桐生に伺った。いつもの通り憲司郎さんが出迎えてくれて一安心。
●島崎さんがどれだけ没頭しているか。ある日インターフォンが鳴ってモニター画面をチェックするとなんと警察官! 恰幅のいいお巡りさんが立っていた。「玄関のドアに鍵が刺さったままだったとのことで、何かあったのかと思いまして。大丈夫ですか?」 。鍵を抜くのを忘れたままで何日か経過したのだった。それで泥棒も入らない治安の良さ(?)も今どき珍しいが、すぐ横に駐めてある車のキーも鍵の束と一緒に刺さっていたのに、「タダでも誰も持って行かないよ15年落ちのオンボロフォレスターなんて」とのこと。「車なんて動けばいんだよ」。(若い頃は最短4週間で次の車に乗り換えてしまうこともあったと聞いているが…)
●スタジオに大量のマテリアルが搬入されている件は本誌113号で紹介したが、その中にはクラシックサーモンフライ用のマテリアルもごっそり含まれている。これは老後に備えての準備の一つなのだそうで、「[シマザキフライズ]が終わったら、もっとテッテ的な世捨て人になってサーモンフライやクラシックストリーマーなんかとノンビリ戯れる予定なんだよ」とのこと。「これも一種の終活なんじゃないの? 道楽者は道楽者らしい終活をしないとね 」と笑った。
●島崎憲司郎さんというと、マシュマロシリーズとかバックファイヤーダンとかクロスオーストリッチというような、クラシックとは正反対のシンプルでポップなフライのイメージがあるが、「これでも嘴が黄色い頃はちゃんとしたフライも一応やったんだぜ」と、いろいろ書き込みだらけのジョン・ビニヤードの名著『FLY DRESSER’S GUIDE』を見せてくれた。古びたページの間からプロショップサワダの昭和40年代の領収書がハラリと落ちた。
●「人間の眼の寿命は65~70年ぐらいなんだってね。眼だけじゃなくて指先の感覚だって同じようなものだろうしさ。70まであと2年足らずだよ。だからしばらくは自由にさせて欲しいんだよ。絶対に面白いものができるからさ。巻いたフライさえあれば、歳とっても講釈ぐらいはいくらでもできると思う。どうやって作ったとか、どこをどうカットするとかね」 。
●そんなことを言いながら島崎さんは、誰も見たことのないオリジナルのスキルをいくつか目の前でやって見せてくれた。エッ、そんな方法があったのか! 呆気にとられて何も言えない。こんなのは序の口で他にも山ほどあるという。たしかに納得した。余計なことは言いません。存分にやってください。
●島崎憲司郎が本気だ。[Shimazaki Flies シマザキフライズ]に刮目すべし。
(編)
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(編集部から2023年の追補)
上の記事が掲載されたのは2018年。「フライの雑誌」では以降、折に触れて〈シマザキフライズ〉の現在について紙面で報告してきた。島崎憲司郎さんのシマザキデザイン・インセクトラウトスタジオでの籠城は、10年を越えた。
この間シマザキさんはフライタイイングの追及の邪魔をする人間関係を完全に排除した。スタジオへの出入りを禁止された業界人(〝腹黒い奴や嘘つき野郎〟?)の名前を幾人か聞いている。元料理人の腕と知識を活かして、日々の食生活には気を使っている。運動と日光浴を欠かさず、今まで以上の健康体を維持している。上の記事の時点を凌駕するストイックさで、〈[Shimazaki Flies]シマザキフライズ〉は着実に進んでいる。
読者の皆さまから編集部へ、「〈シマザキフライズ〉はどうなっているんですか。」という問い合わせをたくさんいただいている。5年前のシマザキさんの言葉を繰り返します。「ちゃんとやっているから、安心してください」。はい。大丈夫です。シマザキさんには、ご本人の納得のゆく限り、ご存分にやっていただくのがいいと思います。それが結局われわれフライフィッシャーマンのためもになるでしょう。それにしても〈シマザキフライズ〉で公開されるアイデアを、一日も早く水辺へ持って行って試してみたいものです。
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『フライの雑誌』次号第129号は
12月初めの発行です。
フライの雑誌-第128号
特集◎バラシの研究
もう水辺で泣かないために
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フライの雑誌 124号大特集 3、4、5月は春祭り
北海道から沖縄まで、
毎年楽しみな春の釣りと、
その時使うフライ
ずっと春だったらいいのに!