壁が騒ぐ2015

今年も3年連続で、『フライの雑誌』編集部にムクドリが巣をつくった。今までと同じ、本を置いている北側の部屋の雨戸の戸袋のなかだ。

じつは今年こそは、ムクドリにわが社の戸袋を引き渡すまいと思っていた。べつにムクドリが戸袋で子育てをしても、とりたてて困ったことはない。ひとりで仕事に集中している深夜に、とつぜん壁の中が「ギョワ!ギョワ!」と騒ぐくらいだ。少しおどろくけど。ただ、野生のトリはダニまみれで病原菌だらけだと聞くので、ダニや病原菌を戸袋のなかに飼うのはいかがなものか、と思ったのだ。いやべつに今までも飼っていたわけではないけれど。

ふだんわたしは、やれフライフィッシングだ、やれ自然が好きだ、ハヤやカエルやムクドリと共に生きよう、などと分かった風なことを言っている。言っているくせに、ダニや病原菌が身近にいるのはいやだ。そういえば先週は、これまた去年にひきつづいてうちのキンモクセイの生け垣の中に小さな巣を作っていたコガタスズメバチの女王を早期発見し、ゴキジェットを噴射して撃退した。ハチジェットは高価なのでゴキジェットで。いいんだよ、人間なんてそういうものだ。

一昨年と昨年の実績から、今年はムクドリがうちの戸袋にやってくるまえを見計らって、あらかじめ対策を講じていた。といっても、ふだん締切っている雨戸をわざと盛大な音をたてて開け閉めするくらいだ。その雨戸バンバンを4月のなかば頃から始めた。対策が功を奏してかしばらくの間戸袋に変化はなかった。これだけうるさくしていれば、今年はムクドリの両親もうちの戸袋をあきらめてくれるのではないかと思っていた。が、それは野生のド根性を見くびっていた。

雨戸バンバンを始めて一週間くらいたったある日、わたしがいつものように雨戸をバン!と開けたら、いきなり目の前を右から左へ巨大なムクドリがバサバサッ!と横切った。しかも続けて二羽。うわっ。お前たちやっぱり壁にいたのか。うかつに足を踏み入れた浅い流れから、尺イワナがどしゅっとダッシュしたみたいな驚きだ。そこにいるなら早く言ってよ。

耳をすませば壁の中からひなの鳴き声はしない。まだ卵産んでないのか。

それからはよりいっそう熱心に、雨戸をバンバンした。ほぼ一時間おきに、わざわざ仕事部屋と反対側にある在庫部屋へ行って、バタンバタンする。けっこうめんどくさい。本当は、戸袋の出入り口(出入り口じゃないが)に詰め物でもすれば、さすがのムクドリの野生も物理的に出入りすることができないのは分かっている。でもわたしは分かっていてそれはしなかった。いわゆる都会っ子上がりの甘さだ。

そうして半月が過ぎ、第105号の編集作業が佳境を迎えたころ、わたしはちょっとつかれていた。つかれていたので、雨戸バンバンも間遠になった。一日のうちに朝と夕方の二回やればいいほうになった。雨戸をバタン!して毎回目の前をムクドリに横切られるのは、来るぞと分かっていてもけっこうびっくりする。つかれているとめんどくさい気持ちが先に立つ。しかも横切った後にムクドリは必ずお隣りの屋根の電線に乗っかって、夫婦そろってものすごい大声でわたしに向かってギャーギャーと騒ぎたてるのだ。うざいよー。

人間の社会では、選挙の前になると、見るからに下品で頭のわるそうな立候補者が駅頭に立ち、ノボリを背負ってよく分からないことをメガホンで騒ぐ。最初のうちは(うざいなー)と意識してそいつへガンを飛ばす。でもそのうちバカ負けして、無視したほうが精神衛生上いいや、と思って素通りするようになる。それといっしょで、つかれていたわたしは、こころのすみで(もういいよ、勝手にしろよムクドリ)という気になってしまっていた。

その隙をつかれた。

第105号の編集のゴールがようやく見えかけたある日の午後、色んな心労のため(原稿寄越さない人々が多くいるので)、わたしは知らずうつらうつらしていた。と、(ガサガサ)、という聞き覚えのある音が聞こえた。ついで、(ぴちゅう)という声で目が覚めた。神経を集中させるともう一度(ぴちゅう)とたしかに聞こえた。ぴちゅう。ぴちゅう。ぴちゅう。ガサガサ。ガサガサ。

ガサガサというのは、餌を運んできた親ムクドリが戸袋へ舞い降り、飛び立った音だ。ひなたちはふだんは戸袋の中でおとなしくしているが、親ムクドリが戸袋へガサガサと舞い降りると、いっせいにぴちゅう。ぴちゅう。と鳴き出す。まだ生まれたてなのだろう、小さくてかわいい声で正直かわいい。

あー。やられた。いつのまにかまた卵産まれた。しかも孵化した。もう手遅れだ。これからひなが巣立つまで、雨戸あけられない。

まあしかたない。わたしはある意味ではこうなることを少しは期待していた部分もある。病原菌だらけとはいえ、仕事机と壁越しのわずか数メートルの距離でムクドリが子育てしているのは、わるい気はしない。むしろ(ムクドリがんばれ、わたしもがんばる)と思って、第105号の編集作業のラストスパートへ集中できる。そうだよ。ムクドリがんばれ、わたしもがんばるよ。ハヤやカエルやムクドリと共に生きよう。

その日の夜、うちのひとに、「あ、そうだ。今年もムクドリが卵産んだよ。」と報告した。このひとのばあい、自分の身近に実害がない限りは暴れることはない。壁の中にムクドリの家族が暮らしていても、病原菌とかダニとか教えなければ大丈夫だ。

ムクドリが巣を作っている北側の部屋のことを、これまでは〝在庫部屋〟とか〝本の部屋〟と呼んでいた。ちょっと調子に乗ったわたしは、「これからは在庫部屋のことを、〝ムクドリの部屋〟か、〝ムクドリの間〟と呼ぼうと思うんだけど。」と、うちのひとに提案してみた。すると、わりあいピシャリとした感じで、「〝ムクドリの部屋〟? それはいや。」と言われた。

ともあれ、ムクドリの家族は安寧の戸袋を手に入れた。わが社は彼らにとっての約束の地だ。早く無事に巣立ってください。戸袋のなかで動かなくなるのとかだけは、ごかんべんください。

ひなたちの鳴き声は、いまはぴちゅう、だが、じきにギョワ!ギョワ!になるだろう。

壁が騒ぐ。2013 

壁が騒ぐ。2014

壁が騒ぐ。2014終了

目の前を横切って戸袋の中から飛び出したムクドリの夫婦がお隣の家のアンテナに乗ってこちらをギャーギャーと威嚇しているところ。
目の前を横切って戸袋の中から飛び出したムクドリの夫婦がお隣の家のアンテナに乗ってこちらをギャーギャーと威嚇しているところ。
けっこう怖いです。
ひなを守る親鳥の迫力はたった二羽でもヒッチコック級。

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